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『サムライ』
『Le Samouraï』
(1967)

スタッフ キャスト レビュー あらすじ サウンドトラックCD

スタッフ
製作: フィルメル/ユージェーヌ・レピシエ/C・I・C・C(パリ)
Filmel-Eugène Lépicier-C.I.C.C.(Paris)
同: フィダ・チネマトグラフィカ(ローマ)
FIDA Cinematografica(Rome)
製作主任: ジョルジュ・カザティ Georges Casati
原作: ゴアン・マクレオ(コアン・マクレア、コーン・マクロード) Joan(or Goan) MacLeod 『The Ronin』(ノンクレジット)
脚本・台詞・監督: ジャン=ピエール・メルヴィル Jean-Pierre Melville
助監督: ジュルジュ・ペルグラン Georges Pellegrin
撮影監督・カメラ・オペレーター(屋外撮影): アンリ・ドカ Henri Decae
カメラ・オペレーター(セット撮影): ジャン・シャルヴァン Jean Charvein
撮影助手: フランソワ・ローリャック François Lauliac
同: ジャン=ポール・コルニュ Jean-Paul Cornu
進行: ジャン・ピューショ Jean Pieuchot
編集: モニーク・ボノ Monique Bonnot
同: ヨランド・モーレット Yo Maurette
編集助手: マドレーヌ・バジオー Madeleine Bagiau
同: ジュヌヴィエーヴ・ルテリエ Geneviève Letellier
同: マドレーヌ・ゲラン Madeleine Guérin
同: ジュヌヴィエーヴ・アダン Geneviève Adam
記録: ベティ・エルヴィラ Betty Elvira
美術: フランソワ・ド・ラモット François de Lamothe
美術助手: テオバルド・ムーリッス Théobald Meurisse
家具装飾: ロベール・クリスティデス Robert Christides
家具装飾助手: アンドレ・ブーメディル Andre Boumedil
装置: アンジェロ・リッツィ Angelo Rizzi
装置助手: フィリップ・ターラー Philippe Turlure
画廊の絵: ブリュマンタル・モマトン・ギャラリー Blumenthal-Mommaton gallery
毛皮: ロベール・ボーリウ Robert Beaulieu
音楽: フランソワ・ド・ルーベ François de Roubaix
録音監督: アレックス・プロン Alex Pront
サウンド編集: ロベール・プーレ Robert Pouret
録音: ルネ・ロンゲ René Longuet
録音助手: ピエール・ダヴォー Pierre Davoust
映画冒頭のエピグラフ: “Il n'y a pas de plus profonde solitude que celle du samouraï si ce n'est celle d'un tigre dans la jungle ... peut-être ... Le Bushido(Le Livre des samouraï)”.

サムライの孤独ほど深いものはない。ジャングルに生きるトラ以上にはるかに孤独だ。... 【武士道】より


キャスト
ジェフ・コステロ Jef Costello: アラン・ドロン Alain Delon
警視 le commissaire: フランソワ・ペリエ François Périer
ジャーヌ・ラグランジュ Jane Lagrange: ナタリー・ドロン Nathalie Delon
ヴァレリー(ピアニスト) Valérie (la pianiste): カティ・ロジェ Caty Rosier
殺し屋 le tueur: ジャック・ルロワ Jacques Leroy
ヴィエネル Wiener: ミシェル・ボワロン Michel Boisrond (特別出演)
修理工: アンドレ・サルグ(ガレ) André Salgues(Garet)
バーテンダー le barman: ロベール・ファヴァール Robert Favart
オリヴィエ・レイ Olivier Rey: ジャン=ピエール・ポジェ Jean-Pierre Posier
クローク係 la fille du vestiaire: カトリーヌ・ジュールダン Catherine Jourdan
刑事: ロジェ・フラデ Roger Fradet
同: カルロ・ネル Carlo Nell
同: ロベール・ロンドRobert Rondo
タクシーの運転手をする刑事: アンドレ・トラン André Thorent
面通しの検査官: ジャック・デシャン Jacques Deschamps
盗聴器を仕掛ける刑事: ピエール・ヴォディエ Pierre Vaudier
同: モーリス・マガロン Maurice Magalon
警官: カタラーノ Catalano
ダモリーニ Damolini: ジョルジュ・カザティ Georges Casati
ガルシア Garcia: ジャック・レオナール Jacques Léonard
ナイトクラブの給仕長: ガストン・ムーニエ Gaston Meunier
ジェフを犯人だと断定するナイトクラブの客: ジャン・ゴールド Jean Gold
ナイトクラブの客: ジョルジュ・ビリー Georges Billy
同: アドリアン・カイラ=ルグラン Adrien Cayla-Legrand
ポーカーをする人: アリ・アリカルディ Ari Aricardi
同: ボナフォー Bonnafoux
ジェフのアパートの隣人: エドワール・フランコム Edouard Francomme
ジェフに似た容疑者: カール・リヒナー Carl Lechner
ガムを噛んだ若い女性 la fille au chewing-gum: マリア・マネヴァ Maria Maneva

コダック・イーストマン・カラー
105分。配給 = プロディス。
1967年6月から8月まで、パリにてロケ撮影、及びジェンネル撮影所、サン=モーリス撮影所にてセット撮影。
パリ公開 = 1967年10月25日。
日本公開 = 1968年3月16日。配給 = 日本ヘラルド映画。
国内盤Blu-ray、DVD発売中。国内VHSビデオレンタルあり。海外盤DVDあり。DVD情報はこちら

なお、スタッフやキャスト等のデータに関しましては、主に「サムライ」(ルイ・ノゲイラ著、井上真希訳、晶文社刊)、「キネマ旬報 1973 616」(シネ・ブラボー ジャン=ピエール・メルヴィル追悼(1)山田宏一)、「Jean-Pierre Melville/An American in Paris」(Ginette Vincendeau著)の3冊を参考とさせていただいております。
また、スタッフの役職名等、映画本編のエンドクレジットとは多少表記が異なると思われる部分もございます。

スタッフ キャスト レビュー あらすじ サウンドトラックCD



レビュー
「サムライ」は、ジャック・ベッケル監督の「現金に手を出すな」等と並んで、今やフランスのフィルム・ノワールを代表する古典的作品の一つであり、後に「仁義」「リスボン特急」と続く、メルヴィル&ドロンの三部作の中でも最高の賛辞を受けている作品です。
フランスの映画評論家マルセル・マルタン氏は、1979年に最も好きなフランス映画を問われた際に挙げた11本(かなり一般的なセレクト)の中にこの作品を入れ、映画好きで知られるデザイナー、アニエス・ベー氏はやはり好きなフランス映画7本(こちらはかなり個性的なセレクト)の中にこの作品を挙げています。
数あるメルヴィルの傑作の中でも、その代表作としてはこの作品を挙げるのが今では一般的かもしれません。

原作はゴアン・マクレオの小説(なんでも原題は「ローニン」だとか・・・)で、それをメルヴィルが脚色したもの。
この原作はいまだに謎の存在なので確認することができませんが、むしろそれよりも、1942年に、グレアム・グリーンの小説を元にフランク・タトル監督が映画化した『拳銃貸します』(アラン・ラッド、ヴェロニカ・レイク主演)からの影響が非常に大きい作品ではないかと思われます。

映画の始めに 【サムライの孤独ほど深いものはない。ジャングルに生きるトラ以上にはるかに孤独だ。】 という「武士道」からという文句が出てきますが、実はメルヴィルが創作した言葉です。
この文句が象徴していますが、この作品はある意味、フランス人の持っている“サムライ”に対するイメージを、一人の孤独な殺し屋に投影して創作した作品と言えるかもしれません。
また、メルヴィル自身も語っていますが、この文句は当時のフランス映画界におけるメルヴィル自身の立場にも相応しいものでもあったのです。

これは、ある殺し屋の2日間の出来事を追った物語です。
映画の展開は淡々としており、決して派手な作品ではありません。
セリフも驚くほど少ない。
正直、ストーリー的なものを追うだけなら、この作品はあまり面白い作品とは言えないでしょう。
例えば、殺人の依頼人であるオリヴィエ・レイがいかなる人物なのか、殺人の被害者であるナイトクラブのオーナー、マルテ氏がなぜ殺されなければならなかったのかなど、映画の中では全く説明がありません。
そして、この映画の主人公である、アラン・ドロン演じるジェフ・コステロという男がいかなる人間であるか、なぜ殺人を仕事としているのか、などに対する具体的な言葉による説明はついに出てきません。

しかし、それらを捉えて、人物の掘り下げや説明の不足を指摘するのは全くの野暮であると思われます。
この映画の面白さは、言葉によって説明し尽くされたストーリー展開のそれではなく、題材から主人公の行動や映像美などの映画的エッセンスのみを抜き出し、独自の美観に貫かれた語り口によって提示された、ある種“詩的な”味わいなのだと思います。
ここには一般的な映画にはなかなか見出しがたい、削ぎ落とされた抑制の美があり、説明されていない部分は、ある意味、観る側のイマジネーションに委ねられているのかもしれません。

この映画は“サムライ”が本来イメージとして持っているストイシズムを基調としつつ、それに、常に死と向かい合わせで最後には自ら死地へと赴いてゆく一人の殺し屋の行動の美学、舞台となったパリの暗黒街の表情らが重ね合わされ、さらに抑制された色彩の映像美が加味されることで、独特のクールで魅惑的なタッチを映画全体に浮かび上がらせることに成功しています。
そして、それは美しさと色気を兼ね備えた全盛期のアラン・ドロンを主演に迎えることによって、圧倒的な視覚的美をも獲得しているのではないでしょうか。



ドロン演じるジェフ・コステロは、小鳥と暮らす一匹狼の殺し屋、という役柄ですが、殺しに出かける際の“戦闘服”ともいえるトレンチコートに帽子姿が最高にキマッており、そのカッコ良さといったらありません。
映画の途中、左腕に銃弾を受けたためにトレンチが“ワヤ”になってからは、黒のチェスターフィールドコートを着ますが、こちらもトレンチ姿に劣らぬカッコ良さです。
全編を通して無表情を通しますが、その無表情にいかに色気があることか。

ただ、メルヴィルが“蛇の眼差し”と語った、カティ・ロジェ扮するピアニストのヴァレリーを見つめる視線だけはどこか異質であり、ここだけジェフの眼がちょっと違うように見えます。(惚れているのだから当然といえば当然)
ジェフの古く薄汚いアパートの部屋(あの印象的な壁の色!)も、いかにも“サムライ”らしく、大変質素です。
事実、アラン・ドロン自身大変この作品を気に入っているということですが、(余談ですが、自身のブランドの香水の名称も「サムライ」!)それもそのはずで、ドロンの長い映画人生の中でも、ここまで俳優としての魅力を十二分に引き出された作品も稀ではないでしょうか。

また、映画全体の印象は極めて“詩的”であるとはいえ、メルヴィル自身撮りたいシーンはとことん拘って(楽しんで?)撮っているようで、部分的な細部の描写は驚くほど丁寧だったりするのがこの映画の面白いところ。

例えば、ジェフ・コステロは、警察から釈放された後、殺人の依頼人(正確には依頼人の手下)に会うために地下鉄を乗り継いだりしてある駅の鉄橋の上にまで向かうわけですが、そこへ至るまでのジェフの足取りをメルヴィルはしつこいくらい丁寧に追います。
その間、ジェフは誰とも言葉を交わすことなく、コツコツというジェフの靴音だけが静かに響きます。
また、それは刑事がジェフのアパートに盗聴器を付けるシークェンスにもいえ、実際のところ、こういったシークェンスは、メルヴィル作品に縁のない方には、眠気を催すような、とてもつまらないシーンに映ってもおかしくはありません。
逆に、こういったシーンを味わえるようになれば、この作品が突如として魅力的な作品として見えてるのではないでしょうか。

他にもメルヴィルらしいシークェンスはいくつもあり、先に挙げた鉄橋のシーンでジェフと依頼人が会うシーンは、二人が向かい合うまでの緊張感と、向かい合って二人の表情がアップになるあのカメラワークが実に見事ですし、盗難車のカーナンバーを変え、拳銃を調達するために、郊外のガレージに向かうところも印象的。(あの素晴らしい灰色の空!)
映画の前半と後半の二度、このシーンがありますが、特に初めのシーンではジェフと修理工(アンドレ・サルグ)は全く言葉を交わすことはありません。
しかし、お互いが何を望んでいるか皆目承知している。
ナンバープレートを換えてもらい、証明書を受け取ったジェフが右手を無言で差し出しパチンと指を鳴らす、そこに修理工は「しょうがねえなぁ」とばかりに拳銃を渡す・・・修理工の、あの拳銃の渡し方などは、まさに拳銃を扱い慣れた人間の渡し方に他ならないと感じてしまうのは私だけでしょうか。
何気ないので、ふと見落としてしまいそうなシーンですが、こういったところにメルヴィル作品を観る醍醐味がある私は思うのです。



そして、二度目のシーンでは一度だけ二人の会話があります。
再び無言で拳銃を要求するジェフに対して、
修理工「これが最後だぞ、ジェフ」
ジェフ「ああ、分かってる!」

このシーンに関して、メルヴィル本「サムライ」に興味深いエピソードが紹介されていますので、紹介します。
メルヴィル「彼(引用注 修理工役のアンドレ・サルグ)は重病だというのに、私を喜ばせようと『サムライ』であの影のような男を演じるのを承諾してくれたんだ。撮影が終わり、病院に戻って亡くなったが、その前に彼にはかろうじて吹き替えをする時間があった。「いいか、ジェフ、これが最後だぞ」と言いながら、彼は自らの死期が近いことを知っていたんだよ。ドロンはその言葉に応じる台詞を入れにやって来た日に彼の死を知り、あの「わかってる!」を別れの言葉のように言っている。あれが永遠の別れだったんだよ!」(引用―ルイ・ノゲイラ著 井上真希訳 晶文社刊「サムライ―ジャン=ピエール・メルヴィルの映画人生」より)
・・・まるでメルヴィルの映画のワンシーンのようなやりとりが現実の生活の中でも行われていたのです!

もちろん、映画後半の地下鉄での警察の尾行をジェフが撒くシークェンスもこの作品の見せ場の一つ。
特に、一見地下鉄を降りる気がなさそうでいて電車の出発間際に電車から逃げ去るシーンや、シャトレ駅の動く歩道で、若い女性の尾行を撒く直前、機を見計らって全力で走り去るドロンのイキが素晴らしい。

見事な助演者たちのことも触れないわけにはいかないでしょう。
当時のドロン夫人であったナタリー・ドロンが、この作品のジェフの愛人ジャーヌ役で女優デビューを果たしています。
結果、そのことが出演に猛反対した夫との離婚の原因となったというオチまでつきましたが、とてもこれがデビュー作とは思えない好演ぶり。
また、「アイドルを探せ」などで有名なミシェル・ボワロン監督が、メルヴィルの要望でジャーヌのパトロン、ヴィエネル氏役で出演しています。

ピアニストのヴァレリー役のカティ・ロジェも大変に魅力的で、ジェフが惚れるのも頷けます。
彼女が出てくるシーンはすべて良いのですが、特に、ラストでジェフに拳銃を突きつけられて「なぜ?」と聞く表情が印象的です。
彼女が自室で日本の作務衣かハッピのような着物を着ているのは“サムライ”にかけたメルヴィルのシャレでしょうか。
もちろん、主任警部役を勤めた名優フランソワ・ペリエの存在がこの作品をキリリと締めていることも忘れてはなりません。
なんとも皮肉な味が効いた存在感を示しており、中でも、ジャーヌのアパートに家宅捜索に乗り込んで偽証罪になるぞと脅すシーンなど名演と言えるでしょう。



撮影がアンリ・ドカ(ドカエ)、音楽がフランソワ・ド・ルーベとこれ以上ないスタッフに恵まれた点もこの作品の大きな魅力。
「私の夢はモノクロのカラー作品を撮ることなんだ」とはメルヴィルの言葉ですが、この作品はまぎれもないカラー作品でありながら、ブルートーンの渋く鈍い色調が全体を蔽った、モノトーンのような印象の強い映画です。
この効果を得るために異論の余地のないくらいの実験を重ねたといいますが、それも長年の盟友アンリ・ドカがいればこそだったでしょう。

フランソワ・ド・ルーベの音楽は間違いなくサントラ史上の傑作。
ド・ルーベ作品では「冒険者たち」ほどの分かりやすさや派手さはありませんが、その静謐なスコアが映画に、そしてジェフ・コステロの行動や佇まいに実にマッチしています。
冒頭のジェフがベッドに横たわるシーンや路地裏に出たシーンに流れる「Le samourai」、哀愁に満ちたトランペットが素晴らしい「La blessure」、ラストでヴァレリーがオルガンで奏でる「Valerie」がとりわけ印象的。(曲のタイトルはユニバーサルミュージックから発売されているサントラCDより)

ラストシーンは笑いながらドロンが死ぬカットもあったとのことですが(本「サムライ」参照)、個人的には現存するカットで良かったと思っています。
だからこそ、あのラストに底冷えのするような深い余韻が残るのではないでしょうか。

最後に三島由紀夫がこの映画について語った文章を紹介します。
「『サムライ』は、沈黙と直感と行為とを扱った、非フランス的な作品で、言葉は何ら重要ではなく、情感は久々の濡れたようなパリの街の描写をアラン・ドロンの哀愁に充ちた目で尽くしている。この映画が殺し屋の沈黙の中に充填したエネルギーは、たしかに密度が高い。それは何らニヒリズムではない。情熱でもない。キリッとした、手ごたえのある、折目節目の正しい行動の充実感である」(引用―三島由紀夫『映画論集成』より)

スタッフ キャスト レビュー あらすじ サウンドトラックCD


あらすじ
4月4日土曜、午後6時。パリのあるアパルトマンの一室。
外は雨がぱらついている。
一匹の小鳥が鳥篭の中でさえずる部屋で、ジェフ・コステロがベッドに横になりながらタバコを吸っている。
やがてジェフは思い立ったように起き上がり、半分にちぎれた札束で飼っている小鳥の鳥かごを撫でる。
そしてトレンチコートを羽織り、帽子を入念に被ると、“仕事”へ向かった。

通りに出たジェフは辺りを物色しながら、他人の車(シトロエン)にサッと乗り込む。
懐から鍵の束を出し、一つ一つキーを合わせてゆく。
やがて鍵口の合う鍵が見つかり車は発進する。
途中、別の車を運転する女の視線に気づきながらも、ジェフは一瞥もせずに去ってゆく。

ジェフは郊外のガレージに車を停める。
中には修理工のオヤジがいて、慣れた調子で車のナンバープレートを別のものへと換える。
ジェフはオヤジと証明書のやり取りをした後、拳銃を要求する。
オヤジはしょうがねえなぁとばかりに拳銃をジェフに渡す。

ジェフはその車で、コールガールをしている愛人ジャーヌの元へと行き、19時から翌日の2時まで彼女の元にいたようにとアリバイの依頼をする。
しかし、ジャーヌは「2時に別の男(ヴィエネル氏)が来ることになっている」というので、ジェフは「では1時45分まで居たことに」と話をつけてその場を後にする。

その後、ジェフは場末のホテルの一室へ行き、顔見知りの連中が朝方までポーカーをしていることを確認すると、その日の“仕事場”であるマルテのナイトクラブへと向かう。
この日の彼の仕事は、このクラブのオーナーであるマルテという男を殺害することである。
受付は通らずに裏口から中に浸入した彼は、オーナーであるマルテに対面すると、言葉もそこそこに射殺する。
しかし、その部屋から出た瞬間、ピアニストのヴァレリーに顔を見られてしまう。
すぐさまその場を立ち去ったジェフだが、何人かの客、クラブの関係者にその姿を見られる。
特に、裏口へ出るその後姿を一人のバーテンダーが凝視している。



ナイトクラブを後にしたジェフは、白手袋と拳銃をセーヌ川に放り捨てる。
そして、ジャーヌのアパルトマンへ行き、その入り口でちょうど2時、ヴィエネル氏と擦れ違って、あたかもその時間までそのアパルトマンに居たかのように振る舞って、アリバイ工作をする。
そして、仕事に使ったシトロエンを乗り捨て、タクシーで夜の街へと消える。

警察が動き始める。
目撃者の供述から、帽子にレインコートの男がパリ中から集められることになり、ジェフがポーカーに加わっていたホテルにも警察が現れ、ジェフは参考人として連行される。

警察(シテ島の司法警察局)にはパリ中から参考人たちが集められ、クラブの関係者や客ら目撃者たちの前で、面通しが行われることになる。
ジェフの顔をハッキリ見たはずのピアニストのヴァレリーは、なぜかジェフの帽子の色が違うといい、ジェフを犯人と明言しない。
また、犯行後にジェフの後姿を凝視していたバーテンダーも彼ではないという。

ジェフのアリバイの裏を取るためにジャーヌとそのパトロンのヴィエネル氏も警察に呼ばれるが、彼らの証言もジェフのアリバイを立証するものでしかない。
もう一度、今回の事件の目撃者たちの前にジェフは立たされるが、ジェフを犯人と断定するのはごく一部の者だけで、さらに一番近くで犯人を見たはずのヴァレリーもジェフは犯人ではないとハッキリと明言する。



4月5日日曜、午前5時45分過ぎ、ジェフは釈放され、タクシーでバイロン街(8区で凱旋門の近く)へと向かう。
バイロン通り1番地でタクシーを降り、ある建物に入って中を巡ると、反対側のシャンゼリゼ大通りに面したノルマンディー劇場(映画館)横の出口に出て、メトロ1号線のジョルジュ・サンク駅から地下鉄に乗る。
そこでジェフは警察の尾行に気づき、それを撒く。

それからパレ・ロワイヤル・ミュゼ・デュ・ルーヴル駅で7号線に乗り換えると、13区のポルト・ディヴリー駅で電車を降り、地上に出る。
そこからしばらく歩いたジェフは、ある鉄橋の上で今回の殺人の依頼人の代理人に会う。
今回の仕事の報酬を受け取るためである。
しかし、警察の取調べを受けたジェフに不審を持った代理人は、ジェフに銃を向ける。
間一髪命を逃れたジェフだが、左腕に銃弾を受け、代理人は車で逃げ去る。
なんとか自身のアパルトマンに戻ったジェフは、その傷口に手当てを施すと、疲労のためかベッドに横になる。

その頃、今回の殺人の依頼人であるオリヴィエ・レイとその一味は、事後策を協議している。
なんとその一味の中にナイトクラブのバーテンダーが混じっている。
彼は依頼人の側の人間だったので、ジェフを犯人と明言しなかったのだ。
彼らは、ジェフが容疑者のままではアシがついてヤバイから、ジェフを消そうという結論を出す。

4月5日午後10時、長く睡眠を取っていたジェフは目覚める。
再び銃弾を受けた左腕の傷口の手当てをすると、夜の街に出る。
目指すはあのナイトクラブである。
カウンターに陣取り、ピアニストを“蛇の眼差し”で凝視するジェフ。
しかし、傍にいたバーテンダーは、ジェフに「犯人は現場に戻る」と言い、その指摘に不愉快になったジェフはナイトクラブを後にする。
その頃、ジェフのアパルトマンには刑事が忍び込み、部屋に盗聴器をセットし、アパートの前のホテルに陣取る。

仕事が跳ねたナイトクラブの前でヴァレリーを待っていたジェフは、車に乗せてくれといい、二人はヴァレリーのアパルトマンへと向かう。
ジェフはヴァレリーになぜ庇ったのか、依頼人を知っているのではないか、と訊ねるが、ヴァレリーの口は堅い。
2時間後に電話してくれとヴァレリーに言われ、ジェフはその場を後にする。

4月6日月曜午前7時。
朝早く、主任警部を始めとする捜査員たちがジャーヌの部屋を家宅捜索に訪れ、偽証罪になることを理由にアリバイ崩しを図るが、ジャーヌは口を割らない。

ヴァレリーに電話をしようと自分のアパルトマンに戻ったジェフ。
だが、なぜか小鳥の様子が変だ。
闖入者があったことを知らせているのか・・・?
部屋の中を物色すると窓の高い場所に盗聴器を発見する。
外出したジェフは、今度はカフェ内の電話機を使ってヴァレリーに電話するが、ヴァレリーは電話に出ない。
再びアパルトマンに戻るジェフ。
すると、昨日鉄橋の上で会った殺し屋が部屋に潜んでいて、ジェフに銃口を向ける。
前回の仕事の残金200万旧フランを渡すと、別の殺人の仕事をジェフに依頼、前金として200万旧フラン渡す。
隙を突いて殺し屋から拳銃を奪ったジェフは、依頼人の名(オリヴィエ・レイ)とその住所(16区モンモランシー73)を吐かせると、新たな仕事の内容を聞き出す。



盗聴器が見つけられてしまった警察は、今度は発信機を駆使した大規模な尾行作戦に打って出る。
オリヴィエ・レイの元へ向かうため11号線のテレグラフ駅からメトロに乗ったジェフだが、警察は尾行を見破られないように女性を使うなどしてジェフの後を追おうとする。

テレグラフ駅の次のプラス・デ・フェット駅では年配の女性(実は刑事)が目の前に座り、怪しいと感じたジェフは次のジュルダン駅で出発間際にドアをこじ開けて外に出る。
しばらくここでジェフは追っ手を撒くため立ち往生し、間違ったふりをして、逆方向のプラス・デ・フェット駅に戻り、そこで乗り換えのため電車を降りる。
しかし、ここのホームで若い女性(実は刑事)がジェフを待っている。
ジェフは7号線に乗り換え、シャトレ駅までメトロに乗る。
女性の尾行に薄々気づいていたジェフは、シャトレ駅の動く歩道で全力疾走して尾行を撒く。

なんとか尾行を撒いたジェフは、シャトレ駅の地上に出ると、またも一台のシトロエンに忍び乗り、例の鍵の束を出してそれを盗む。
そして、またも郊外のガレージへと向かう。
そこでまた修理工のオヤジにナンバープレートを換えてもらい、再び拳銃を要求するジェフ。
オヤジ「これが最後だぞ、ジェフ」
ジェフ「わかってる」

愛人ジャーヌの部屋へと向かうジェフ。
またも仕事の手助けを頼みに来たのかと誤解するジャーヌだが、ジェフは永遠の別れを告げに来たのだ。

オリヴィエ・レイの居場所に乗り込んだジェフだったが、なんとそこはヴァレリーの部屋とつながっていた。
やはりヴァレリーはオリヴィエ・レイの一味だったのだ。
その場でオリヴィエ・レイと出会ったジェフは、すぐさま殺害、最後の仕事場であるマルテのナイトクラブへと向かう。
その仕事とは、マルテ殺人事件の証人であるヴァレリーを殺すことである。
ナイトクラブの前で拳銃の弾の数を確認するジェフ。
クロークに帽子を預けるが、預かり証をすぐにその場に置く。
ここに、すでにジェフの“ある覚悟”が垣間見える。

カウンターに陣取ったジェフは白手袋をはめると、オルガンを弾くヴァレリーの前に出る。
彼女を見つめるジェフ。
ヴァレリー「演奏中よ」
彼女に向けて拳銃を構えるジェフ。
ヴァレリー「どうして」
ジェフ「仕事さ」
ジェフが拳銃の引き金を引こうとした次の瞬間、クラブに張り込んでいた刑事の銃声が4発鳴り、ジェフは床に倒れる。
驚いて外に出る客たち。
呆然とたたずむヴァレリーに立ち寄る刑事。
刑事「危なかったな」
主任警部「いや」
ジェフの拳銃には弾が入っていなかった・・・。




スタッフ キャスト レビュー あらすじ サウンドトラックCD

サウンドトラックCD

ユニバーサル・フランスから2005年に発売された『サムライ』のサウンド・トラックCD。
このCDは、作曲者のフランソワ・ド・ルーベ(Francois de Roubaix 1939〜1975)が作曲した『冒険者たち』と『サムライ』の音楽を一枚のCDにまとめたものです。
残念ながら、国内盤は発売されておりませんが、輸入盤は比較的容易に入手できます。

『サムライ』の音楽はフランソワ・ド・ルーベの傑作の一つと言ってよいかと思います。
メルヴィルからド・ルーべへの仕事の依頼は、作曲と録音を2週間以内で、という急なものでしたが、ド・ルーべは、オーケストレーションと指揮を担当したエリック・ド・マルサン(『影の軍隊』『仁義』の音楽の作曲者)の助力も得ながら、監督のメルヴィルも満足の行ったという素晴らしい仕事をしたのです。

ド・ルーべ曰く、「メルヴィルはごくシンプルな指示しか出しませんでした。音楽はジェフ・コステロの心の肖像画のように機動しなければならない。言ってみれば、彼の過去、特に彼の運命によって特徴づけられた性格のように。
つまり、私が表現せねばならなかったのは彼の運命だったのです…。」

このCDは、全部で23トラックが収録されており、前半の11トラックが『冒険者たち』の音楽、後半の12トラックから21トラックまでが『サムライ』の音楽となっています。
そして、22、23トラックが、ニコラス・エレーラによる『サムライ』のリミックス(ピアノ演奏も)となっています。

『サムライ』関連の曲目は次の通り。

12 Le samourai
13 Valerie
14 Martey's
15 La blessure
16 Hotel sandwich
17 Costello dans la ville
18 Jeff et valerie
19 Fatalite
20 Jeff et jeanne
21 Le destin de costello(final)

22 Le samourai se remixe(partie 1)
23 Le samourai se remixe(partie 2)
Piano et remix par Nicolas Errera(2005)

これらのトラックが、『サムライ』のどの部分に使用されているかを検証してみましょう。

12 『Le samourai』
ハモンドオルガンを用いた映画のテーマといえる音楽で、映画冒頭でジェフ・コステロがベッドから起き上がる場面、その後、通りに出て車を盗む場面に使われている。
警察の尋問から解放され、タクシーに乗る場面にも。

13 『Valerie』
映画のラスト、ナイトクラブでヴァレリーがオルガンで演奏する音楽。
ヴァレリーが黒人であることが影響したのか、非常にソウルフルな印象が強い。
確信はないが、映画の演奏ヴァージョンとこのCDのヴァージョンは演奏内容が微妙に異なるように感じられる。

14 『Martey's』
フルートを用いた穏やかな曲調の音楽。
映画のラストのナイトクラブの場面で、ヴァレリーが登場する前にバンドが演奏する曲に似ているが、このCDヴァージョンは映画本編では使われていないようだ。

15 『La blessure』
“怪我”という名の通り、ジェフが殺し屋に襲われた後、怪我の手当ての場面に使われている、トランペットが印象的な音楽。
眠りから覚め、再び手当てをする場面でも使われている。
一番最初にジェフがジャーヌのアパートに行く場面でも、この曲のごく一部が使われている。

16 『Hotel sandwich』
アコーディオンを用いたパリのムードに溢れた音楽。
映画の前半で、ジェフがアリバイ作りのために場末のホテルにポーカーの様子を見に行く場面、映画の後半で、ジェフがヴァレリーに電話するために入るカフェの場面にも。

17 『Costello dans la ville』
曲の前半部分が、映画冒頭でジェフがトレンチ・コートを着て帽子を被ってアパートの部屋を出る場面に使われている。
また、曲の後半部分が、車を盗んだ直後のジェフが、車に乗った女性の視線を無視する場面にも使われている。

18 『Jeff et valerie』
映画中盤、ジェフがヴァレリーの様子を見にナイトクラブへと現れる場面で使われる。ナイトクラブで、ヴァレリーがピアノトリオでこの曲を演奏しているという設定である。
この曲を演奏中のヴァレリーとジェフは見つめ合う。

19 『Fatalite』
宿命という意の作品。
曲の冒頭部分のみ(フルートが使われている)、ジェフがガレージのオヤジから拳銃を受け取る場面に使われている。(2度とも)
曲の前半部分が、ジェフがヴァレリーの下から自分のアパートに帰った場面に使われている。
そこでジェフは、鳥の様子から盗聴器の存在に気づく。
不安げで暗い曲調から、後半快活な曲調と変わるが、その部分が、ジェフがオリヴィエ・レイの元へ行くため、アパートから街へと出る場面に使われる。
ここから有名な地下鉄狩りが始まる。

20 『Jeff et jeanne』
サムライのテーマのピアノ変奏曲風で、ピアノの響きが印象的。
ジェフとジャーヌが最後に部屋で別れる場面で使われているが、タイトルに反して、ジェフとヴァレリーが一緒に車に乗っている場面にも使われている。

21 『Le destin de costello(final)』
エンドクレジットで流れる。
15トラック『La blessure』の双子のような曲だが、こちらは映画のラストに相応しい終わり方をしている。
哀愁に満ちたトランペットがコステロの死を悼んでいるかのよう。

22 Le samourai se remixe(partie 1)
ニコラス・エレーラによるリミックス、ピアノ演奏で『Le samourai』を叙情的にピアノで演奏したようなヴァージョン。

23 Le samourai se remixe(partie 2)
22トラック同様、ニコラス・エレーラによるリミックスで、いくつかのトラックがつなぎ合わされている。
ビートの効いた現代的な印象のリミックス・ヴァージョン。

ちなみに、2008年にユニバーサル・フランスから発売された『Jean-Pierre Melville Le Cercle Noir』には『サムライ』から2トラック収録されております。
『Le samourai』と『Fatalite/La blessure』ですが、後者は『Fatalite』と『La blessure』二つの曲がつなげられたトラックですので、実質3トラック収録されていると考えてよいかと思われます。



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