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『いぬ』
『Le Doulos』
(1962)

スタッフ キャスト レビュー 鑑賞前の予備知識 あらすじ

スタッフ
製作: ローマ=パリ・フィルム Rome-Paris Films
同: C.C.シャンピオン(ローマ) C.C.Champion(Rome)
製作代表: カルロ・ポンティ Carlo Ponti
同: ジョルジュ・ド・ボールガール Georges de Beauregard
原作: ピエール・ルスー(ガリマール刊、1957) Pierre V.Lesou
脚本・台詞・監督: ジャン=ピエール・メルヴィル Jean-Pierre Melville
助監督: シャルル・ビッチ Charles Bitsch
同: フォルカー・シュレーンドルフ Volker Schloendorff
撮影監督: ニコラ・エイエ Nicolas Hayer
カメラ・オペレーター: アンリ・ティケ Henri Tiquet
撮影助手: アンドレ・デュブルイユ Andre Dubreuil
同: エティエンヌ・ローザンフェール Etienne Rosenfeld
美術: ダニエル・ゲレ Daniel Guéret
美術助手: ドナルド・カードヴェル Donald Cardwell
装置: ピエール・シャロン Pierre Charron
宝石: ルネ・ロンゲ René Longuet
音楽: ポール・ミスラキ Paul Misraki
ピアノ演奏: ジャック・ルーシエ Jacques Loussier
管弦楽指揮: ジャック・メトエム Jacques Metehem
録音: ジュリアン・クテリエ Julien Coutellier
録音助手: ルヴェイ Revelli
同: ゴードレ Gaudelet
編集: モニーク・ボノ Monique Bonnot
編集助手: ミシェール・ボエーム Michèle Boehm
進行: ジャン・ピュショー Jean Pieuchot
同: ロジェ・シピオン Roger Scipion
スチール写真: レイモン・ヴォワンケル Raymond Voinquel
記録: エイリザベート・ラプノー Elisabeth Rappeneau
宣伝: ベルトラン・タヴェルニエ Bertrand Tavernier
映画冒頭のエピグラフ: En argot,‘Doulos’veut dire ‘chapeau’.
Mais,dans le langage secret des policiers et des hors-la-loi,‘Doulos’ est le nom que l’on donne à celui ‘qui en porte un’...
L’indicateur de police.

隠語“デュロス”とは帽子のことである。
この帽子を被る者を、警察とならず者の間で“デュロス”と呼ぶ。
警察の“いぬ”を指すのである。

Il faut choisir.
Mourir ... ou mentir?

道はひとつ。
死ぬか、または、嘘をつくか


キャスト
シリアン Silien: ジャン=ポール・ベルモンド Jean-Paul Belmondo
モーリス・フォージェル Maurice Faugel: セルジュ・レジアニ Serge Reggiani
クラン警視 commissaire Clain: ジャン・ドサイ Jean Desailly
ファビエンヌ Fabienne: ファビエンヌ・ダリ Fabienne Dali
ヌテッチオ Nuttheccio: ミシェル・ピコリ Michel Piccoli
ジルベール・ヴァルノヴ Gilbert Varnove: ルネ・ルフェーヴル René Lefevre
ジャン Jean: エメ・ド・マルシュ Aimé de March
テレーズ・デルマン Thérèse: モニーク・エヌシー Monique Hennessy
カーン Kern: カルル・スチューダー Carl Studer
刑事ポロ: マルセル・キュヴリエ Marcel Cuvelier
刑事ジョー ジャック・レオナール Jack Léonard
医師ルケー: クリスチャン・リュード Christian Lude
アルマン Armand: ジャック・ド・レオン Jacques de Léon
ジャンの妻アニタ Anita: ポーレット・ブレイユ Paulette Breil
レミ Rémy: フィリップ・ナオン Philippe Nahon
老人デレタン: シャルル・ベヤール Charles Bayard
サリニャリ警部 Salignari: ダニエル・クロエム Daniel Crohem
バーテンダー Barmans: シャルル・ブイヨー Charles Bouillaud
同: ジョルジュ・セリエ Georges Sellier (ノンクレジット)
給仕長: アンドレ Andrès (ノンクレジット)
ヌテッチオの店の客: ピエール・ヴォディエ Pierre Vaudier

モノクロ
108分。配給 = リュクス・フィルム、C.C.F.
1962年4月から6月まで、パリにてロケ撮影、及びジェンネル撮影所にてセット撮影。
パリ公開 = 1963年2月8日
日本公開 = 1963年11月16日。配給 = 東和。
国内盤DVDあり。国内VHSビデオレンタルあり。海外盤DVDあり。DVD情報はこちら

なお、スタッフやキャスト等のデータに関しましては、主に「サムライ」(ルイ・ノゲイラ著、井上真希訳、晶文社刊)、「キネマ旬報 1973 616」(シネ・ブラボー ジャン=ピエール・メルヴィル追悼(1)山田宏一)、「Jean-Pierre Melville/An American in Paris」(Ginette Vincendeau著)の3冊を参考とさせていただいております。
また、スタッフの役職名等、映画本編のエンドクレジットとは多少表記が異なると思われる部分もございます。



レビュー
少々ストーリーが難解である点が気にならなくもありませんが、これぞフィルム・ノワール!と言いたくなるハード・ボイルドな雰囲気が堪らない作品。
余計な音楽を省いて静寂を活かした演出が、なんとも言えない緊張感を醸し出していて魅力的です。

ただ、登場人物をキチンと押えておかないと、ストーリー展開について行けなくなる可能性が大ですので、その点充分注意が必要です。
実際、私もDVDでこの作品を何度か観ていますが、主役のシリアンの心理(行動動機?)が最初はよく分かりませんでした(苦笑)。
実際、メルヴィル自身「『いぬ』は非常にややこしくて、実にわかりにくい映画だ。」と語っているほどですから・・・。
しかし、この作品が、メルヴィルの最高傑作にも譬えられる魅力的な作品であることは疑いありません。

主役のシリアンを演じるジャン=ポール・ベルモンドは、他の主演作品とは全く印象の異なる、冷め切ったニヒルな役柄を演じ切っていて見事。
彼の俳優としての実力のほどを垣間見る思いで、「勝手にしやがれ」のベルモンドしか知らない人には是非観て欲しい作品です。

また、ベルモンド以外にもこの時代のフランス映画を代表する俳優がズラリと出演しているのも魅力。
例えば、トリュフォーの「柔らかい肌」に出ていたジャン・ドサイがクラン刑事役を生き生きと演じていて印象的です。
特に、クランのオフィスのシーンは10分近くをワンカットで撮っており、すべてのメルヴィル作品の中でもとりわけ印象的なシーンとなっています。
事実、メルヴィル自身、自分の撮った映画で自慢できるシーンはこのシーンと、『影の軍隊』冒頭のドイツ軍の凱旋門行進シーンだけだと語っているほどです。

他にも今なお名優として活躍中のミシェル・ピコリがチョイ役ながら素晴らしい演技を見せてくれますし、セルジュ・レジアニ(歌手としても活躍、先ごろ逝去)も、ここでは助演賞モノの活躍ぶりです。

クランのオフィスのシーン等、多くの印象的なシーンに彩られた名作ですが、中でもオープニングとラストは、メルヴィルの面目躍如たる名場面と言えましょう。

スタッフ キャスト レビュー 鑑賞前の予備知識 あらすじ



『いぬ』鑑賞前に押さえておきたい予備知識
非常に理解の難しい作品ですので、作品を観る前に以下の人物像を頭に入れておく必要があると思われます。

モーリス(セルジュ・レジアニ)
4年間に渡る服役生活を終え、今はジルベールの世話になっている。
服役中に愛妻アルレットを何者かに殺されていて、その殺人犯はジルベールではないかと疑っている。
現在はテレーズという愛人の元に身を寄せている。
仲間のレミと共にヌイイの大邸宅を襲う計画が間近に控えているが、今一つ気が乗らない。
物語冒頭でジルベールの家へ向かう。

ジルベール(通称ジル。ルネ・ルフェーヴル)
映画冒頭でモーツァルト街宝石商強盗で手に入れた宝石類を故買屋に売りつけるための細工をしている。
出所後のモーリスの面倒を見ているが、その妻アルレットを殺した疑いを持たれている。
早くヌイイの大邸宅を襲うようモーリスに促しているが・・・。

ヌテッチオ(ミシェル・ピコリ)
ナイトクラブを経営するやくざで、評判はかなり悪い。
シリアンの以前の愛人だったファビエンヌを今は情婦として囲っている。
以前ジルベールらと共にモーツァルト街宝石商強盗を働いていて、物語冒頭では、様子を見るためにジルベールの家を仲間のアルマン、情婦ファビエンヌと車で訪れる。
ちなみに、後部座席に座っているのは当然ファビエンヌであり、テレーズではないので念のため。(二人とも結構顔が似ているので誤解の恐れあり)

シリアン(ジャン=ポール・ベルモンド)
仲間内での仁義に厚い男だが、警察にも親しい人間(サリニャリ警部)がいて、警察の“いぬ”との噂も絶えない。
最初の登場シーンでは、モーリスらが邸宅を襲うための金庫破りの道具一式をモーリスの元に届けに来る。
そこで初対面のテレーズと顔を合わせるが、なぜか二人とも態度がよそよそしい。

ジャン(エメ・ド・マルシュ)
シリアンとモーリスの仲間。
初めて登場する場面では、新聞で知ったジルベール殺害後のモーリスの様子を見に来る。
のち、モーリスが負傷した際、妻のアニタにその世話を頼む。
“いぬ”を始末するが、とんだところからアシが出てしまう・・・。


まだまだありそうですが、とりあえず、以上のことを押さえておけば、この作品を鑑賞する上でのある程度の助けになるのではないかと思い、挙げてみました。

スタッフ キャスト レビュー 鑑賞前の予備知識 あらすじ



あらすじ
鉄橋とトンネルの下に延々と続く一本道を一人の男が歩いてくる。
4年間の服役生活で健康を損ね、すっかり疲労困憊したモーリス・フォージェルである。
服役中に妻のアルレットを何者かに殺されたが、犯人は見つかっていない。
出所から4ヶ月が経つが、その間に新しい女もできたし、昔の仲間ジルベールも面倒を見てくれる。
しかし、妻アルレットはそのジルベールに殺されたのではないかという疑念が脳裏から消えなかった。

モーリスは線路そばにあるジルベールの一軒家へと向かう。
その二階では、ジルベールが宝石に細工をしていた。
その宝石類は、先日、ジルベールらが働いたモーツァルト街宝石商強盗事件の“戦果”である。

ジルベールは、モーリスに、仲間のレミと共にヌイイの邸宅を襲う計画を促す。
モーリスは、話がウマすぎると今一つ気が乗らないが、“仕事”仲間のレミは明日決行だと言っている。
ジルベールは、その話は誰にも、特にシリアンには喋るなとモーリスを諭す。
シリアンには警察の“いぬ”だという噂が絶えないからだが、モーリスはその噂を信じていなかった。
ジルベールは、これから仲間のヌテッチオがここに来ると言うと、モーリスは、シリアンとは大違いで、ヌテッチオこそ評判の悪い最低の奴だと言い放つ。

そして、帰り際、明日の仕事に脅しに使うかも、とジルベールから拳銃を借りる。
しかし、ジルベールと視線があった瞬間、妻殺しの疑念が確信に変わったのか、モーリスは思わず引き金を引く。
ジルベールはその場に倒れ、死ぬ。
モーリスは、部屋の中の自分の指紋を拭き取り、宝石類、現金を奪う。
ちょうどその時、表にヌテッチオとアルマン、ヌテッチオの情婦ファビエンヌの乗った車が停まる。
ヌテッチオらは、モーツァルト街宝石商強盗事件実行犯の一味で、奪った宝石の様子を見に来たのである。
その場から急いで逃げ去ったモーリスは、人気のない空き地のガス灯の下に、拳銃、宝石類、現金を埋める。



翌日…モーリスの“仕事”の決行日である。
モーリスのアパルトマンを仲間のシリアンが訪れ、金庫を開けるための道具一式を持ってくる。
同じく仲間のジャンも、新聞でジルベール殺害のニュースを知り、モーリスの様子を見に来る。
シリアンとジャンの話によれば、モーリスの服役中、ジルベールはモーリスの妻アルレットを口封じの為に人の手を借りて殺した。
そのことを知った出所後のモーリスは、酒に酔うと、ジルベールを殺すと息巻いていたというのだ。

ジャンの帰り際、モーリスの現在の情婦テレーズ・デルマンがアパルトマンに帰ってくる。
その顔を見て一瞬驚くシリアンだが、一方のテレーズは、シリアンに対してどこかよそよそしい態度を取る。
テレーズは、その夜のモーリスの“仕事”現場であるヌイイの邸宅を午後の間ずっと見張っていたのだが、それによると、その邸宅では、デレタンという老人が現在は一人で留守居しているらしい。
間もなくモーリスのアパルトマンを後にしたシリアンは、その足で、友人であるサリニャリ警部に電話をする…。

夜、モーリスはレミと共に地下鉄でヌイイの“仕事”現場へと向かう。
そんな頃、シリアンはテレーズが一人残ったアパルトマンに戻ってくると、突然テレーズを殴り、縛り上げ、モーリスの“仕事”場所を吐かせる。



モーリスとレミは予定通り邸宅に押し入り、住人の老人を脅して縛り上げる。
レミがさっそく金庫を開けにかかった頃、モーリスが屋敷の外の様子を見に行くと、表は既に警官隊に包囲されつつあった。
モーリスは急いで屋敷へと戻り、レミと共にその場をズラかる。
「やはり、噂どおりシリアンが密告したのか!?」

逃げ去る二人を通りで待っていたのは、何者かに連絡を受け、現場に急行したサリニャリ警部だった。
レミはサリニャリに撃たれる。
モーリスもサリニャリと撃ち合いになり、サリニャリは撃たれて倒れ、モーリスも肩を撃たれてしまう。
なんとか逃げ去ろうとするモーリスだが、途中で力尽きて倒れる。
そこへと走り来るテレーズの車…。

モーリスが意識を取り戻した時、そこはジャンの家で、知り合いの医者ルケー、ジャンの妻アニタが介抱してくれていた。
ジャンからの電話で治療のため呼ばれたというルケーは、丸一日は安静でいるようにとモーリスに告げ、アニタに後を任せると、そこを去る。

誰がジャンの家にモーリスを運んできたのかは謎だったが、今回の“仕事”の失敗は、どう考えても、シリアンが警察に密告したためだとしか考えられない。
モーリスは、埋めた宝石や現金の場所を書いた地図を、万が一の時はジャンだけに知らせるようにとアニタに託すと、裏切り者のシリアンを見つけ出すために外に出る。



ヌイイの事件を受け、パリの街をパトロールするクラン警視と部下の刑事たち。
シリアン、モーリスの後を追っていた彼らは、偶然シリアンを街角で見つけると、警察署へと連行する。

シリアンは、クランらから尋問を受ける。
サリニャリ警部は誰にも事情を知らせずに殉職してしまったが、警察は、シリアンが友人のサリニャリにヌイイの強盗事件を密告したと信じていた。
だからこそ、現地へ向かう前のサリニャリに電話したシリアンに、撃たれて死んだレミ以外のもう一人の首謀者を吐かせようというのだ。
そんな話は知らないと言い張るシリアンに対し、ではテレーズは知っているかと聞くクラン。
実はあの後、テレーズも何者かに殺され、石切り場に車ごと捨てられていたのだ。
これに対してもしらを切るシリアン。
クランは、一転話を変え、ジルベール殺しについての密告の話を始める。
サリニャリは、ジルベール殺しの犯人はモーリスだとの密告の電話を何者かから受けていたのだ。
その密告者は、サリニャリに対し、モーリスの逮捕を待つように頼み、サリニャリも承知していたのだという。
なかなか尻尾を掴ませないシリアンに対し、刑事たちは、シリアンの新築の家の金の出所や、ヤク絡みの話でシリアンを心理的に追い込むと、電話を方々にかけまくってモーリスの居所を探し出せという。
シリアンはそれを承諾する。



シリアンが方々に電話するうち、モーリスがあるバーにいることが分かり、モーリスは呆気なく逮捕されてしまう。

ジルベール殺しの件で、モーリスを尋問するクラン。
出所以来世話になったジルベールを殺すわけがないと言い張るモーリスだが、クランは、この件とヌイイのサリニャリ殺しを結びつけて、モーリスを尋問する。

その頃、空き地のガス灯の下にモーリスが隠した現金、宝石、拳銃をシリアンが掘り起こしていた…。

刑務所に送られたモーリス。
数人と同房だが、その中にカーンという大男がいる。

ヌテッチオが経営するナイトクラブを訪れたシリアン。
そこで、シリアンは、以前はシリアンの女だったが、現在はヌテッチオの情婦となっているファビエンヌという女と会い、あるアパルトマンで会う約束を取り付ける。

一夜を共にしたシリアンとファビエンヌ。
シリアンは、ジルベール殺しの犯人はヌテッチオだと決めつけ、ファビエンヌはあの時、ヌテッチオの車の中に居たのだから、その証言次第で、獄中のモーリスを救えるのだと諭す。
そして、ファビエンヌの自分に対する未練や、実はヌテッチオと縁を切りたがっている心情をくすぐると、ファビエンヌは、ヌテッチオたちがジルベールを殺したのではないと思いつつも、シリアンの気持ちを取り戻したい一心で、シリアンの要望通り、ヌテッチオらが家に入った後に銃声がしたと証言することを約束する。



白昼、ヌテッチオのクラブへと忍び込んだシリアン。
今や完全にシリアンの女に戻ったファビエンヌと連絡を取りつつ、事務室へと入り、そこでヌテッチオを待つ。
間もなく、ヌテッチオが事務室へ来ると、シリアンはヌテッチオに銃口を向け、再びファビエンヌに電話してアルマンも呼び出すように指図する。
シリアンは、ヌテッチオに銃口を向けながら、ガス灯の下から掘り起こした宝石類を机の上に広げると、これと引き換えに金を出せと脅す。
宝石を確認し、50万フランでも出すというヌテッチオに対し、シリアンは金庫から金を出せと指図する。
ヌテッチオに金庫を開けさせた時、ちょうどアルマンが来たことを窓から確認したシリアンは、ヌテッチオに手袋をはめさせると、躊躇なく撃ち殺す。

事務室に来たアルマン。
シリアンはヌテッチオに撃たれたふりをして、アルマンを油断させ、手に持っていた銃をわざと落とすと、アルマンは、その銃でシリアンを撃つが、銃には弾が入っていない。
その隙に、用意してあった別の銃を持ったシリアンは、アルマンを撃ち殺す。
シリアンはファビエンヌに電話し、警察に通報させる。
シリアンは、ヌテッチオとアルマンが宝石を巡って殺し合いをしたように細工すると、現金を奪ってその場を去る。



現場に落ちていた宝石、拳銃から、ジルベール殺しはヌテッチオらの仕業と分かり、疑いの晴れたモーリスは出所する。(注 ジルベール殺しに使われた拳銃と、ヌテッチオの殺しに使われた拳銃は同じである)
しかし、モーリスは、そもそも誰の密告によって、自分が捕まったのかが不思議でならなかった…。

シリアン、モーリス、ジャンの3人がバーで会い、シリアンがモーリスに事情を説明する。

サリニャリ刑事と友人だったシリアンは、数ヶ月前に警察の女スパイを紹介されていた。
その女にシリアンは、道具一式をモーリスのアパルトマンに運んだ日に再び会ったのだ。
つまり、それがテレーズであり、テレーズこそが警察に情報を流していた“いぬ”だったのだ。
その日、シリアンがサリニャリに電話したのは、ヌイイの現場に向かわせないように食事に誘うためだった。
しかし、既にテレーズからモーリスらの強盗の話を通報されていたサリニャリは、シリアンの誘いを断って、ヌイイの現場へと向かったのだ。

シリアンはテレーズを縛り上げてヌイイの住所を吐かせ、その車で現場へと向かったが、それはモーリスを助けるためであり、銃弾に倒れたモーリスを助け出したのも、ジャンの家に運んだのもシリアンだったのだ。
それからシリアンはサリニャリに電話して、事を収めようとしたが、サリニャリは既に殉職していた。
ジャンは、モーリスの介抱を妻のアニタに任せると、彼らにとって危険な存在であるテレーズを始末した。
そして、シリアンは、モーリスの逃亡のため、偽造旅券を買いに探し歩いていたというのだ。

バーでクランに捕まった原因が分からないというモーリス。
シリアンは、モーリスはジャンの家で寝ていると確信していたから、あえて馴染みのバーに電話したのだが、運悪く出掛けていたモーリスはクランに捕まってしまったのだ。
地図を元に、宝石と拳銃を掘り起こしたシリアンは、それをヌテッチオとアルマンの偽装殺人の道具に使い、二人にモーリスの罪を被せることでモーリスを助けたのである。
シリアンの説明を聞いて納得した様子のモーリス。
シリアンはこの世界から足を洗い、ファビエンヌとポンチエリに引きこもるつもりだといい、バーを去ってゆく。



そのバーへ、モーリス宛の電話がかかり、電話交換がモーリスに伝言を伝える。
「200万の花環を送るのなら、お金の用意を」…
実はモーリスは、獄中で同房だったカーンという男に、カーンが出所したら、200万の金で裏切り者シリアンを殺すようにと依頼していたのである。
今や裏切り者の疑いの晴れたシリアンをカーンに殺させるわけにはいかない。
モーリスは、ジャンの車を借りて急いでシリアンの家へと向かう。

一人バーに残ったジャンの元へ、クラン警視ら警察が現れる。
テレーズを始末した車にレインコートの切れ端が残っていたのだが、ジャンの家のクローゼットに、そのレインコートが残っていたことが証拠となり、ジャンは逮捕される。
シリアンの後を追ったモーリスは、途中でガソリンスタンドに立ち寄ったシリアンを知らぬ間に追い越してしまう。

カーンは、シリアンを狙って家の中に隠れている。
逆光で顔が判別できなかったことが災いし、カーンは、家に先に着いたモーリスをシリアンだと勘違いして撃ってしまう。
間もなく、家に戻ったシリアンが、中で倒れているモーリスを発見する。
辛うじて息の残っていたモーリスは、最後の力を振り絞ってシリアンにカーンの隠れている場所を知らせる。
「つ、い、た、て…」
モーリスの言葉で、殺し屋がついたての奥に潜んでいることを察したシリアンは、ついたて目掛けて銃を乱射すると、ついたてが倒れ、無数の銃弾を受けたカーンが倒れる。
ところが、まだ息の残っていたカーンは、シリアンの背中目掛けて銃を放つ。
それをまともに背中に食らったシリアンは、フラフラになりながらもファビエンヌに電話する。
「ファビエンヌか?今夜は行けない…」
そう告げて電話を置くと、シリアンは息を引き取るのだった。



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