スタッフ |
製作: |
コロナ(パリ) Corona(Paris) |
同: |
セレニア(ローマ) Selenia(Rome) |
製作代表: |
ロベール・ドルフマン Robert Dorfmann |
製作主任: |
アラン・ケフェレアン Alain Quéffélean |
原案・脚本・台詞・監督: |
ジャン=ピエール・メルヴィル Jean-Pierre Melville |
監督補: |
ベルナール・ストラ Bernard Stora |
助監督: |
ピエール・タチ Pierre Tati |
同: |
ベルナール・ジラルド Bernard Girardot |
進行: |
G・クロスニエ G.Crosnier |
撮影監督: |
アンリ・ドカ Henri Decae |
カメラ・オペレーター: |
シャルル=アンリ・モンテル Charles-Henri Montel |
撮影助手: |
フランソワ・ローリャック François Lauliac |
同: |
ジャン=ポール・コルニュ Jean-Paul Cornu |
美術: |
テオ・ムーリッス Théo Meurisse |
音楽: |
エリック・ド・マルサン Eric de Marsan |
録音: |
ジャン・ネニー Jean Nény |
編集: |
マリー=ソフィ・デュビュス Marie-Sophie Dubus |
編集助手: |
エリザベート・サラダン Elizabeth Sarradieu |
同: |
C・グルネ C.Grenet |
装置: |
ピエール・シャロン Pierre Charron |
装置助手: |
マルク・ドサージュ Marc Desages |
装飾: |
ルネ・アルブーズ René Albouze |
衣装: |
コレット・ボード Colette Baudot |
宝石: |
ルネ・ロンゲ René Longuet |
録音担当(音取り): |
ギィ・シシニュー Guy Chichignoud |
録音助手: |
ヴィクトル・ルヴェッリ Victor Revelli |
録音技師: |
ジャック・カレール Jacques Carrère |
記録: |
ジャクリーヌ・パレー Jacqueline Parey |
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映画冒頭のエピグラフ: |
“Cakyamuni le Solitaire,dit Sidarta Gautama le Sage,dit le Bouddah,se saisit d'un mouceau de craie rouge,traca un cercle et dit:Quand des hommes même s'ils l'ignorent,doivent se retrouver un jour,tour peut arriver à chacun d'entre eux et ils peuvent suivre des chemins divergents.Au jour dit,inéluctablement,ils seront réunis dans le cercle rouge.”
Rama Krishna
賢者シッダールタ、またの名を仏陀は、ひとくれの赤い粘土を手に取り、それで輪を描いてこう言った。“人は、それと知らずに必ずめぐり会う。たとえ互いの身に何が起こり、どのような道をたどろうとも、必ずや、赤い輪の中で結び合う”と。
ラーマ・クリシュナ |
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キャスト |
コーレイ Corey: |
アラン・ドロン Alain Delon |
マテイ警視 commissaire Mattei: |
アンドレ・ブールヴィル André Bourvil |
ジャンセン Jansen: |
イヴ・モンタン Yves Montand |
ヴォージェル Vogel: |
ジャン・マリア・ヴォロンテ Gian-Maria Volonté |
サンティ Santi: |
フランソワ・ペリエ François Périer |
故買屋 le receleur: |
ポール・クローシェ Paul Crauchet |
監査局長 l'inspecteur général des services: |
ポール・アミオ Paul Amiot |
リコ Rico: |
アンドレ・エキヤン André Ekyan |
看守 le gardien de prison: |
ピエール・コレ Pierre Collet |
サンティの息子 le fils de Santi: |
ジャン=マルク・ボリス Jean-Marc Boris |
コーレイの昔の女 l'ancienne amie de Corey: |
アナ・ドゥーキング Ana Douking |
マテイ側近の刑事 l'assistant de Mattei: |
ジャン=ピエール・ポジェ Jean-Pierre Posier |
刑事 policiers: |
ロジェ・フラデ Roger Fradet |
同: |
ジャック・ルロワ Jacques Leroy |
同: |
イヴァン・シッフル Yvan Chiffre |
同: |
ロベール・ロンド Robert Rondo |
リコの子分ポール Paul, l'homme de Rico: |
ジャン=ピエール・ジャニク Jean-Pierre Janic |
宝石店の店員 le vendeur à la joaillerie: |
ロベール・ファヴァール Robert Favart |
宝石店の責任者(店長?): |
ピエール・ヴォディエ Pierre Vaudier |
予審判事 le juge d'instruction: |
イヴ・アルカネル Yves Arcanel |
踏切番 le garde-barrière: |
ジャン・シャンピオン Jean Champion |
ビリヤード場の管理人 le gardien du billard: |
エドワール・フランコム Edouard Francomme |
ホテルの経営者 le tenancier d'hÔtel: |
ジャン・フランヴァル Jean Franval |
車掌 le chef de train: |
ジャック・ガラン Jacques Galland |
サングラスをした故買屋: |
ジャック・レオナール Jacques Léonard |
監査局長補佐 l'assistant de l'inspecteur général: |
ピエール・ルコント Pierre Lecomte |
マテイの上司 le chef de Mattei: |
ルネ・ベルティエ René Berthier |
記録保存室員 l'employé du greffe: |
ジャン・ピニョル Jean Pignol |
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コダック・イーストマン・カラー |
140分。配給 = コロナ・フィルム |
1970年1月から4月まで、パリ、パリ首都圏、シャロン=シュル=ソーヌ、マルセイユにてロケ撮影、
及びブーローニュ撮影所にてセット撮影。 |
パリ公開 = 1970年10月20日 |
日本公開 = 1971年12月12日(短縮版2時間)。配給 = 東和。 |
国内盤DVDあり。国内DVD、VHSビデオのレンタルあり。海外盤DVDあり。DVD情報はこちら |
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なお、スタッフやキャスト等のデータに関しましては、主に「サムライ」(ルイ・ノゲイラ著、井上真希訳、晶文社刊)、「キネマ旬報 1973 616」(シネ・ブラボー ジャン=ピエール・メルヴィル追悼(1)山田宏一)、「Jean-Pierre Melville/An American in Paris」(Ginette Vincendeau著)の3冊を参考とさせていただいております。
また、スタッフの役職名等、映画本編のエンドクレジットとは多少表記が異なると思われる部分もございます。 |
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レビュー |
なんとも日本映画的な邦題が付いていますが、原題の意味は「赤い輪」。
メルヴィル自身の脚本による、彼のフィルム・ノワールの集大成とも言える作品であり、公開時フランス国内で大変な大入りを記録、メルヴィル作品随一の大ヒットとなった作品です。
原題の意味ですが、映画の冒頭に、ラーマクリシュナが聞いたとされる仏陀の言葉「人はそれと知らずに必ずめぐり逢う。たとえ互いの身に何が起こり、どのような道をたどろうとも、必ずや赤い輪の中で結び合う」が紹介されております。
日本での公開時のパンフレットにも「決して会ってはならぬ5人の男―。それが運命の糸にあやつられて、のっぴきならぬ対決へと追いこまれてゆく。」という解説がありますが、簡単に言いますと、友情であったり対立であったりといった人間同士のパーソナルな因縁ということを言いたいのではないでしょうか。
『サムライ』にも武士道からという文言が紹介されておりましたが(実際はメルヴィルの創作)、この仏陀の言葉も出典がハッキリと明示されているわけではなく、もしかしたら、これもメルヴィルの創作かもしれません(笑)。
それだけメルヴィルが東洋的な価値観に傾倒していた証拠かもしれませんが、他の作品同様、この作品の登場人物たちもどこか東洋的(日本的?)といいますか、求道者的な振舞いが目に付きます。
ただ、内容に東洋的な行動美学が見られるとはいえ、当然のことながら邦題から連想されるような“人情ドロドロ感”(?)はなく(笑)、フランス映画らしいこざっぱりしたクールなストイシズムがなんとも印象的。
映画の中に女性もほとんど登場せず、全編にわたりジャン=ピエール・メルヴィル監督作品らしいとしか言いようのない、ダンディズム溢れる男の世界が展開されています。
もしかしたら、メルヴィル作品の完成度としてなら『サムライ』の方が、または『いぬ』の方が上かもしれません。
『仁義』は、長さのせいか、または多様な要素を詰め込んであるせいか、どこか焦点を絞り切れていないような冗長さが感じられることは事実かと思われます。
映画の展開は必ずしもテンポが良いわけではないので、途中で眠気を催す場面がなくはありません。
事実、この私もこの作品を初めてビデオで観た時には、2回ぐらい途中で寝てしまいました(笑)。
それに、 一度観ただけでは、ストーリーが分かりにくいところがあるのも事実。
例によってセリフも少ないので、登場人物たちが自らの行動を言葉で説明することはほとんどなく、また説明的な描写も大変アッサリしています。
例えば、リコが看守を脅すシーンがありますが、すぐにあの看守だと気づかない人も多いではないでしょうか。
また、映画冒頭で看守がコーレイに宝石強盗の話を持ちかけた際、始めは“仕事”に気の乗らなかったコーレイが、その話を聞いて、どうしてやる気になるのか、そういった部分は言葉では全く説明されません。
それに、友情と裏切りが大きなテーマとして描かれている作品であるにもかかわらず、肝心のサンティの裏切りがシーンとして明確に描かれているわけではないので、ストーリーとして分かりにくさがあるのは否定できません。(ただ、これはあえて映像としてハッキリ出さないのがメルヴィル美学とも言えましょう)
以上挙げた点などを欠点として捉えるならば、確かにこの作品はツッコミどころ満載ではあります。
しかし、私はこの作品が、他のメルヴィル作品同様、いや、それ以上に好きです。
観始めると、少しだけ観るつもりが、途中でやめるのがツラくなります(笑)。
特に、コーレイたちがパリに向かうまでの映画前半が好きですね。
もちろん、クライマックスである宝石強盗のシーンの綿密な描写も素晴らしく、数十分もの間、ほとんどセリフも音楽もない緊張感に満ちたシークェンスは、ムードたっぷりで堪りません。
そして、この映画は、本筋はもちろんですが、その細部にもなんとも面白いシーンが盛り沢山なのです。
以下、それをいくつか紹介してみましょう。
これはイヴ・モンタン演じるジャンセンの存在感が素晴らしい作品なのですが、初めて登場するシーンでは、アル中特有の幻覚、幻聴に悩まされ、髭は伸び放題、汗みどろの不潔ったらしい格好で登場します。
ところが、次の登場シーンにて、コーレイと待ち合わせたナイトクラブでは見違えるようにシャキッとしたダンディな格好で現れます。(足元から映して徐々に姿全体を映し出す演出も効果的)
そして、コーレイに「スコッチ二つ」と先に注文されてしまったジャンセンは、アル中のくせに(だからこそ?)「酒は、やらない」と言い放ちますが、コーレイは何の遠慮もなく「ダブルで」と追加注文までしてしまいます(笑)。
その後のジャンセンのバツの悪そうな表情と、それをまるで恋人を見るかのように覗き込むコーレイの表情!
また、映画後半で、ナイトクラブで新たな故買屋と待ち合わせているコーレイの元に、タバコ売りのバニー・ガールが、キャメラの方に向いてちょっと考えてから、赤いバラを渡すシーンがあります。
これなど、本筋に直接関係あるシーンではなく、カットされたっておかしくないシーンかもしれません。
しかし、バニー・ガールのどこかはにかんだような微笑と、それに応えるコーレイの微笑み・・・もしかしたら深い意味があるのか?とつい考えてしまうような、なんとも味のある印象的なシーンなんですよね。
もっとも、バニー・ガールがちょっと考えてから渡す点からも、裏切りのシンボルである赤いバラを、サンティがその意を知らせようとしてコーレイに渡させたのでは?という説も一部あるようです(笑)。
そういえば、映画の前半、久々にシャバに出たコーレイがカフェ・スタンドでコーヒーを飲んでいるシーンで、店員らしき女性とふと視線を交わすシーンがありますが、あれなどほんの僅かなシーンなのに、コーレイが女性を見つめる視線の奥に、シャバに出た喜びと開放感を感じさせもしました。
そして、全編のハイライトとも言える、押し入った宝石店でジャンセンが、ライフルを三脚から外して、あえて自分の腕に抱えて撃つシーンなど、いかにもメルヴィルらしい、自分のプライドを賭けた求道者的なシーンです。
三脚にライフルを備え付けて、すでに照準も合わせてあるわけですから、そのまま撃った方が目的を達するためには明らかに可能性が高いわけですが、それではジャンセンのプライドが許さない。
いわば、ジャンセンは自分の“腕”に賭けるわけです、そして、一発で目的を達する。
狙い通り、防犯装置が効かなくなったことを見届けたジャンセンは、懐から携帯ウィスキーを取り出して、呑むかと思いきや、自分の“腕”に酔うかのように、匂いだけ嗅いだだけで満足そうに蓋をして懐にしまう・・・これもまたメルヴィルらしいストイシズムが感じられる、最高にシビれるシーンですね。
その先を観てみると、ジャンセンには、まだ他の二人を車で送るという仕事が残っているわけで、さすがにあそこで酔い潰れるわけにはいかない(笑)。
もしかしたら、映画的にはその方が面白いのかもしれませんが、そういったことはメルヴィルはしません。
そして、ジャンセンが他の二人より一足早く宝石店を後にする時、自分が撃ったキーの痕をチラッと見るシーンがありますが、まさしくあの瞬間、ジャンセンは真の意味でアル中を克服し、自分自身に対する賭けに勝ったといえるのだと思います。
だからこそ、後にジャンセンは満足気に「自分の分け前はいらない」とまで言えるのではないでしょうか。
これらは、まさに“男のロマン”を感じさせるシークェンスであり、観て何も感じない方はおそらくメルヴィルとは無縁でしょう。
事実、ネット等でこの作品の評価が結構真っ二つに分かれたりするのは、こういったシーンを楽しめないところに原因があるのではないでしょうか?
好きな人にとってはもう堪らなく好きな映画でしょうし、そうでない人にはあまり面白くない、長くて退屈な映画ではないかと思います。
もちろん、私が前者であるのは言うまでもありません(笑)。
そして問題のラスト、ヴォージェルが、故買屋に扮したマテイからコーレイを逃がそうとするシーンです。
国内盤DVDでは
マテイ「なぜ黙ってた?」
ヴォージェル「仁義さ」
の二言で片付けられてしまっているので、これまた映画のハイライト・シーンであるにもかかわらず、言葉の意味が非常に分かりにくいというなんとも不幸なことになってしまっています。
まぁー邦題が邦題だし、ここで「仁義」という言葉を使いたくなる製作者側の気持ちも分からなくはないのですが(笑)、あまりに意訳が過ぎますよね。
以下、私があらすじにも書いたこの部分を引用してみます。
ヴォージェル「コーレイ、ブツをさらって逃げろ!」
一瞬、事態が呑み込めず、呆然と立ちつくすコーレイ。
ヴォージェル「鞄を持って早くズラかれ!!」
コーレイは、その場を急いで逃げ去る。
驚いた表情のマテイ「なぜ俺が誰だか言わなかった?」
ヴォージェル「言えば逃げねえに決まってるさ・・・」
これだけでも言葉の意図はある程度お分かりいただけると思いますが、例の最後の二言の裏に隠されたニュアンスをよりハッキリさせてみましょう。
ヴォージェルがコーレイに対して単に「逃げろ!」としか言わず、その理由となる、故買屋が実は警察であるということをハッキリ言わなかったので、マテイはヴォージェルに対して「なぜ俺が警察の者だとハッキリ言わなかった?」と問うているわけです。(当然ヴォージェルはマテイの顔をよく憶えているはずです)
それに対するヴォージェルの答えの意図は、「それを言えば、コーレイは逃げないだろうし、お前を殺すかもしれない。言わないでヤツを逃がすのが(いわば)仁義だ。」というニュアンスだと感じられます。
つまり、逃走中にコーレイに助けられたヴォージェルにとって、この場でコーレイを逃がすことが仁義を果たすことになり、結果的に(かもしれませんが)、そのことでマテイの命も救っているわけですね。
現に、このシーンで、ヴォージェルはマテイを撃ち殺してもおかしくないのに、何もせずにこの場を去ります。
ここで思い出されるのが映画の冒頭、寝台車の中のシーンで、マテイがヴォージェルを気遣ってタバコを吸うのをやめるシーンです。
映画の中では全く説明がないものの、ヴォージェルは心のどこかでマテイの細やかな気遣いに感謝し、ある種の親近感を抱いていたのかもしれません。
そこで問題になるのが、ブールヴィル演ずるマテイ警視の人間像です。
ヴォージェル逮捕のためなら、ヴォージェルの友人であるサンティ本人どころか、サンティの息子まで偽装逮捕でしょっ引いたり、自ら故買屋に変装したりするような荒っぽいこともやりますが、プライベートでは3匹の猫とだけ暮らす孤独で質素な生活を送り、ヴォージェルをクロと確信していながらも、監査局長に対しては、ヴォージェルを含めいかなる容疑者にも無罪の可能性ありと語る人間です。
我々は、この作品をコーレイら犯罪者の側に感情移入して観てしまいますので、警察の人間はそれと対立する敵役として捉えてしまいがちです。
しかし、この作品でのマテイ警視は、決してイヤな人間、嫌悪すべき敵役としては描かれていません。
ラストでは、かつての同僚ジャンセンを自らの拳銃で撃ち、警官であることの悲哀をも感じさせます。
ブールヴィルという俳優の持っている存在感とか雰囲気が、マテイ警視という役柄に、決して通り一遍でない、大変脹らみのある人間的なキャラクターを吹き込んでいると言えましょう。
もちろん、アラン・ドロン演ずるコーレイについても取り上げなくてはなりません。
この豪華キャストの中でもドロンの名は一番上のクレジットに来ていますが、この作品では正直言って、モンタン、ブールヴィルの存在感の前で少々割を食っている感は否めません。
しかし、考えますに、コーレイという役は、正に立ち振舞いだけで見せるような役であり、逆に当時のドロンの陰のある存在感と演技が充分に効いている役柄と言えるのではないでしょうか。
例えば、コーレイとヴォージェルが泥地でお互いを認める場面・・・コーレイがヴォージェルにタバコを投げる、ヴォージェルが投げ返す・・・それだけのことで男同士が互いを同志だと認める場面がありますが、ライターを受け取る時のドロンの手つきがカッコイイんですよ、もう(笑)。
カッコイイといえば、泥地でヴォージェルに対して、仮出所証を懐から出す仕草もそうですし、リコのアパルトマンで金庫から札束と拳銃を奪うシーンでの、あの一瞬の“イキ”の素晴らしさといったらないですね。
もちろん、ラストの死にっぷりの良さ(?)も最高。
脇役では、出番は少ないながらも、リコを演じたアンドレ・エキヤン、故買屋を演じたポール・クローシェの味のある存在感が印象的ですし、また、マテイの部下の刑事に、『サムライ』の殺し屋を演じたジャック・ルロワ、オリヴィエ・レイを演じたジャン=ピエール・ポジェの二人が、そして、同じく『サムライ』でバーテンダーを演じていたロベール・ファヴァールが宝石店の店員として出演しています。
この辺り、スタッフも含めメルヴィル組総結集という様相ですが、どうしてこうもアクの強い、味のある俳優を上手く起用できるのか、昨今のサスペンス映画を観るにつけ感じざるを得ません。
ところでスタッフと言えば、ルイ・ノゲイラ著「サムライ」を読むと、この映画の撮影は他の作品に比べてもことのほか大変だったらしく、完全主義者メルヴィルとスタッフの間には厳しい対立もあったようです。
本の中では実名こそ明かしていませんが、そのスタッフの代表的な人物が長年の盟友でもある撮影監督のアンリ・ドカ(ドカエ)であることは内容を読む限り明白でしょう。(ちなみに記録係ジャクリーヌ・パレーはドカ夫人)
ファンにとっては本当に残念なことですが、二人の関係はこの作品が最後となり、メルヴィルの遺作となった『リスボン特急』にはドカは起用されておりません。
しかし、この作品においても、(メルヴィル本人が相当介在しているだろうにせよ)アンリ・ドカのキャメラ・ワークは実に見事であり、『サムライ』同様の硬質のブルー・トーンで映画を美しく彩っています。
彼のキャメラがこの作品の魅力の一旦を担っているのは間違いありません。 |
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あらすじ |
西マルセイユ駅発パリ行きの特急列車に、手錠でつながれた二人の男が飛び乗る。
その二人、マテイ警視と容疑者のヴォージェルは寝台車の個室に入り、23時40分、列車は出発する。
ちょうど同じ頃、マルセイユに程遠からぬ、ある刑務所の独房の中。
ベッドに横になっているコーレイのところへ、看守のシルバンがそっと入ってくる。
シルバンはコーレイに明日が出所だと知らせると、宝石強盗の“仕事”を持ちかける・・・。
マテイとヴォージェルの乗った列車の中。
安全ピンで手錠の鍵を密かに外したヴォージェルは、いきなり足から窓を蹴り割ると外に逃げ去る。
列車を止めたマテイは自らも外へ飛び出し、逃げるヴォージェルを拳銃で狙うが、捉えることはできない。
マテイは付近一帯に非常線を張り、検問所を設けるように手配する。
早朝、シャバに出たコーレイは、あるアパルトマンの一室のブザーを押す。
ブザーに気づいたリコは覗き穴からコーレイを認め、躊躇いながらもドアを開け、作り笑いでコーレイを迎える。
コーレイの昔の仲間であるリコは、コーレイが5年も刑に服している間、コーレイの昔の女を手に入れていた。
リコに金を要求したコーレイは、強引に金庫を開けさせると、札束と拳銃を奪い取る。
ビリヤード場で一人遊ぶコーレイの元に、リコの手下二人が来て金を返せと脅す。
コーレイは隙を突いて一人を殴り倒し、その流れの中で手下が拳銃を発砲、別の男の頭に命中する。
その拳銃をも手に入れたコーレイは、近くの車屋で中古車を買う。
買った車でパリに向かって高速道路を飛ばすコーレイは、途中で二丁の拳銃をトランクの鞄の中にほうり込む。
ヴォージェルの逃走現場には手配された警官たちが山狩りのためにぞくぞくと集まっている。
警察犬を先頭にヴォージェルの後を追う警官たちの様子は、さながら人間狩りの体である。
コーレイの走る高速では、ヴォージェルを捕らえるための検問所が作られ、コーレイも検問を受けるが、ドライブインでの食事の最中、逃走中のヴォージェルが偶然コーレイの車のトランクの中に忍び込む。
次の検問所で、コーレイはトランクがなぜか閉まっていないことに気づくが、そこを運よく通過すると、やがて人影のない泥だらけの草原地帯に車を停め、トランクの中に声をかける。
トランクの中から拳銃を構えながら出てきたヴォージェルは、コーレイに銃を向けつつ、助けた理由を聞くが、コーレイは仮出所証を見せ、ラジオを聴いて事情は察していると言い、タバコとライターを投げて渡す。
お互いに奇妙な友情を感じた二人は、パリなら安全と、パリに向かって再び走り出す。
リコの手下は、車で先回りして強引にコーレイの車を停めると、コーレイに拳銃を向け札束を取り返す。
そのままコーレイを殺そうと森の中に入れた手下二人だが、その後ろへ密かにトランクからヴォージェルが拳銃を構えて出てきて、手下二人を撃ち殺す。
手下が懐に入れていた札束は血だらけとなり、それを投げ捨てて、二人は再びパリへと向かう。
パリ警視庁の監査局長室にて、マテイとその上司が監査局長に事の顛末を説明している。
いかなる容疑者にも無罪の可能性ありと語るマテイに対して、警官も含めあらゆる人間は有罪なりとの自論を述べる監査局長は、その能力を疑いつつもマテイにヴォージェル逮捕の任を命ずる。
サンティズというナイトクラブに向かったマテイは、そこの経営者サンティにヴォージェルと友人である証拠の写真を見せ、ヴォージェルの情報提供を要求する。
コーレイは、看守に聞いた話を元に、ヴォージェルを宝石強盗に誘い、射撃手をやってくれないかと持ちかけるが、ヴォージェルは俺には無理とそれを断り、元警官の凄腕の友人を仲間に引き入れることを提案する。
元警官のジャンセンは郊外に一人で暮らしているが、今はアル中特有の幻覚や幻聴に悩まされている。
そこへコーレイから電話が入り、二人で会う約束をする。
森にてリコの手下が殺された現場が検証され、マテイはヴォージェルの逃走と何か関連があるのではと疑う。
サンティズでコーレイがジャンセンに“仕事”を依頼しているその場に刑事が現れ、サンティを連行してゆく。
サンティを迎えたマテイは、この逮捕はサンティが警察の“いぬ”であるという評判を立たせないためのでっち上げで、狙いはヴォージェルの情報提供であると告げるが、サンティはそれをキッパリと拒絶する。
コーレイを介して、車の中で久々の再会をするジャンセンとヴォージェル。
ヴォージェルは、自分は逃走中の身で、相手はジャンセンの警官時代の同期であるマテイであると言う。
コーレイは今回の“仕事”を知っているのが自分たち3人と刑務所の看守、故買屋の5人であることを説明し、ジャンセンに現場の下見を依頼する。
その現場とは、ヴァンドーム広場にあるビルの中のモーブッサン宝石店。
そこへ向かったジャンセンは、同じビルの4階にプルヴィエ家があり、入口に管理人室があることをチェックしつつ店内へと入ると、ブレスレットや時計を見るふりをしながら、店内の天井の四隅の警報装置、ケースのロックなどをくまなくチェック、特に、シャッター奥の壁のキーに鋭く目を光らせる。
店を後にしたジャンセンは、他の二人に対し、看守の情報は正確で、宝石ケースは防弾ガラスで、開閉もロックもすべて電動式だが、壁のキーがそのケースと通路に仕掛けた警報装置を制御している、そして、陳列室への通路はその一ヶ所のみで、さらに防犯カメラがある・・・と説明する。
郊外にある故買屋の家に出向いたコーレイは、今度の仕事で得る宝石が2千万フランに上ると説明するが、故買屋は細工に手間がかかるので、せいぜい4分の1の500万フランぐらいしか払えない、支払いはブツを預かった翌日になると語り、詳細はいずれ新聞で、と二人は別れる。
森に射撃練習のため出向いたジャンセンだが、ブランクのせいか標的を中々完璧には捉えられない・・・。
閉店後のモーブッサン宝石店では、店主らしき人物と警備員が店の中を点検して警備装置をセットしている。
ジャンセンは家で弾薬を調合、特殊な弾丸を鋳造し、一方のコーレイとヴォージェルは出掛ける準備をする。
コーレイに宝石強盗を持ちかけた看守に対しリコは、コーレイが出所するとなぜ報告しなかった?と詰問する。
事情を知らなかった、知ってたら・・・と口を濁す看守に、どういう意味だ?説明しろ!とリコは脅し上げる・・・。
深夜とおぼしき時刻、ある路地裏に車を停めたコーレイとヴォージェルは、近くのあるビルに忍び込むと、さまざまなビルを伝い歩いて、ヴァンドーム広場を一望できる、ビルの天井へと出る。
一方、ジャンセンは正装し、見たところ楽器用と思われるケースを持って家を出る。
コーレイとヴォージェルは目的の宝石店の屋根の上まで来ると、縄梯子で宝石店のトイレの裏へと降りる。
トイレの窓から中に浸入した二人は、隙を突いて警備員を襲って縛り上げると、ジャンセンの到着を待つ。
宝石店のビルの前まで来たジャンセンは、入口で管理人に4階の住人プルヴィエだと騙ると、4階まで上がる振りをし、靴を脱いで2階の宝石店まで静かに降り、約束の午前3時に他の二人に宝石店の中に入れてもらう。
ジャンセンの持ってきた楽器ケースの中には三脚とライフルが入れてあり、ジャンセンはライフルを三脚にセットし一旦は照準を合わせるが、突然三脚からライフルを外すと、自分の腕に抱えて壁のキーに向かって撃つ。
これは見事に一発で命中し、特殊な弾丸によってキーが塞がった状態となり、全ての防護設備は無力と化す。
コーレイとヴォージェルは宝石類を次々と袋に詰め、ジャンセンは一足早く店を後にする。
コーレイの車に乗ったジャンセンが、ヴァンドーム広場に乗り付けたその時、警備員が防犯ブザーを鳴らす。
ジャンセンは他の二人を車に乗せると、猛スピードでその場を後にする。
事件の後、マテイの元には“強盗犯人を知っている”という匿名の密告状が届く。(これが看守から強盗の計画話を聞いたリコによる仕業であることは明らかであろう)
コーレイは、故買屋に約束通りブツの買取を依頼するが、騒ぎが大きすぎて買い手が付かない、と断られる。
実は、これもリコが裏から手を回していた仕業であった。
新たな故買屋を探す羽目となった3人は、サンティは信頼できる男だから、仲介を頼んでみては?と相談する。
仲介を依頼されたサンティは、ある故買屋に電話し、コーレイと会う約束を取り付ける。
あるリセの構内で刑事がサンティの息子らを捕らえて警察に連行、麻薬をやってるだろうと尋問する。
警察に乗り込んだサンティは、俺を吐かせるために罪のない息子をしょっ引いたんだろう?とマテイに怒る。
事実、息子らの逮捕は、サンティに情報を吐かせるための偽装逮捕だったのだが、刑事の尋問に息子は罪状を吐き、挙句はアスピリンを大量に飲んで自殺未遂をする。
予想外の事態に動揺したマテイだが、クロの息子を助けられるのは親の君だけだとサンティに語る・・・。
ジャンセンはコーレイに対し、あの特殊な弾薬の作り方は現在は監査局長である上司に20年前に教わったのだ、また、自分の分け前は要らないからお前ら二人で分けろ、片がつくまで責任は持つ、と語る。
ジャンセンは今回の件をキッカケにアル中を克服したことで満足だったのだ・・・。
サンティの仲介で新たな故買屋とナイトクラブで待ち合わせたコーレイ。
現れた故買屋は捌く手順を説明し、引渡し場所の家の地図を書くが、その風貌はどこかマテイに似ている・・・。
コーレイはヴォージェルに、今度の故買屋は信頼できそうな男で、これからジャンセンとその家へ向かう、明日は高飛びだ、と語るが、ヴォージェルの表情はどこか不安げである・・・。
雨の中、コーレイとジャンセンは車で故買屋の邸宅へと向かう。
邸宅の門前でジャンセンを車中に残し、コーレイだけが中に入り、故買屋に扮したマテイの出迎えを受ける。
奥に通されたコーレイは宝石を見せ、それに対しマテイは感嘆の口笛を吹き、サングラスを外してコーレイの顔をジロリと見る・・・ちょうどその瞬間、ガラスの砕ける音がして、拳銃を構えたヴォージェルが中に入ってくる。
ヴォージェル「コーレイ、ブツをさらって逃げろ!」
一瞬、事態が呑み込めず、呆然と立ちつくすコーレイ。
ヴォージェル「鞄を持って早くズラかれ!!」
コーレイは、その場を急いで逃げ去る。
驚いた表情のマテイ「なぜ俺が誰だか言わなかった?」
ヴォージェル「言えば逃げねえに決まってるさ・・・」
邸宅の木立の中を逃げるコーレイとヴォージェルだが、刑事たちとの撃ち合いの中、ヴォージェルは倒れる。
ジャンセンも警察に向かって銃を構えるが、一瞬早くマテイの銃弾に倒れる。
「君か・・・」自分の銃弾に倒れたのが、かつての同僚ジャンセンであることを知って驚くマテイ。
先に走り去ったコーレイも逃げ切れず、刑事の銃弾に倒れる。
重い気分で邸宅の門前に出たマテイを、パイプを咥えた監査局長が出迎える。
監査局長「人は皆、罪人だ。マテイ君・・・」
険しい表情のマテイ・・・。
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サウンドトラックCD |
2000年にユニバーサル・ミュージックから発売された『仁義』のオリジナル・サウンド・トラックCD。
ここには未発表のものも含めて、作曲者エリック・ド・マルサンが『仁義』のために作曲した主要楽曲のすべてが収録されております。
『仁義』の音楽は、もともとはミシェル・ルグランが担当するはずでした。
そのせいでしょうか、いまだにビデオ・パッケージなどには“音楽・ミシェル・ルグラン”と表記されているものもあります。
しかし、結果的にルグランは解任され、『影の軍隊』でも音楽を担当していたド・マルサンに再び白羽の矢が立つことになります。
そうなった経緯については、このCDのブックレットに収録されているエリック・ド・マルサンのインタビューに詳しく書かれております。
以下、簡単にその経緯を述べます。
前作『影の軍隊』で音楽を担当し、メルヴィルの信任も得、以後も連絡を取り合っていたド・マルサンは、次の映画でも声をかけてもらえると思っていた。
しかし、その担当はミシェル・ルグランへ。
ド・マルサンの落胆は大きく、しばらくメルヴィルとの交流も途絶えた。
数ヶ月後、ルグランの音楽に満足できなかったメルヴィルはド・マルサンに連絡を取り、『仁義』の音楽を依頼した。
しかも、それは以後3週間で、という短い期間であった。
ド・マルサンは複雑な思いを抱きながらも、ルグランへの義理もありその場での即答は避けたが、翌日ルグランから電話で、「私のことにかまわず『仁義』の音楽を担当してほしい、急な話なので、アレンジのことで助力が必要ならいつでも協力する・・・」との連絡が。
このルグランのフェアな態度に後押しされるように、ド・マルサンはこの仕事を請けた・・・というのが簡単な経緯のようです。
メルヴィルがド・マルサンに望んだ音楽ですが、ド・マルサンの言葉を借りるならば、「MJQ(モダン・ジャズ・カルテット)のオーケストラ感覚をもったミニマル調の音」であり、「音楽が罠にすっぽりとはまり込んだような運命的なイメージを観客に与えねばならない」というものでした。
わずか3週間で作曲の任を負わされたド・マルサンには大変な重圧がかかることになりますが、結果、彼の音楽は映画を損なっていないばかりか、メルヴィルの過酷な要求にしっかりと応える、素晴らしいものに仕上がったと思います。
事実、彼の音楽がこの傑作の魅力の一端を担っていることは間違いありません。
派手で耳に付く曲としては、サンティのナイトクラブでかかるビッグ・バンドの曲ですが、やはり、エンディングに流れる「『仁義』のテーマ」は名曲といってよいと思います。
とりわけ、ベースがボンボンボン・・・と入ってくる部分はシビレますね。
ヴィブラフォーンを使っている点も、MJQ好きのメルヴィルの要求だったのでしょう。
他に、このCDの2曲目に収録された「めぐり逢う男たち」は、映画ではコーレイとヴォージェルが泥地でお互いを認め合いタバコを吸うシーンに流れる、ほの暗いピアノの響きが印象的な音楽ですが、メルヴィルの言うところの“音楽が罠にすっぽりとはまり込んだような運命的なイメージ”を印象付ける見事な効果を生んでいます。
また、6曲目に収録された、警官隊がヴォージェルを追うシーン(人間狩り)に流れる音楽(「ヴォージェルを追う警察隊」)も緊迫感があって効果的です。
実際、『仁義』を観ていて、音楽の少ない映画だな、という印象はいまだにあるのですが、それは、メルヴィルが余分な音を極力省いた結果であり、それだけに要所要所に流れるド・マルサンの音楽が大変印象的なのです。
録音:1970年10月、スタジオ・ダヴォウ
サウンド・エンジニア:クロード・エルメソン
演奏(ソリスト):ダニエル・ユメール(ドラムス)、ガイ・ペデルセン(ベース)、ジョルジュ・アルヴァニタス(ピアノ)、ベルナール・リュバ(ヴィブラフォン)、ライモン・グイオ(フルート)、ジョス・バセリ(アコーディオン)
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