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『影の軍隊』
『L'Armée des ombres』
(1969)

スタッフ キャスト レビュー あらすじ

スタッフ
製作: フィルム・コロナ(パリ) Films Corona(Paris)
同: フォノ・ローマ(ローマ) Fono Roma(Rome)
製作代表: ロベール・ドルフマン Robert Dorfmann
製作主任: アラン・ケフェレアン Alain Quéffélean
製作総指揮: ジャック・ドルフマン Jacques Dorfmann
原作: ジョゼフ・ケッセル Joseph Kessel 『L'Armée des ombres』 (邦訳 『影の軍隊』 榊原晃三訳 早川書房刊)(1943)
脚本・監督: ジャン=ピエール・メルヴィル Jean-Pierre Melville
助監督: ジャン=フランソワ・アダン Jean-François Adam
同: ジョルジュ・ペルグラン Georges Pellegrin
同: J.C.ヴァンチュラ J.C.Ventura
外国語台詞顧問: ハワード・ヴェルノン Howard Vernon
撮影監督: ピエール・ロム Pierre Lhomme
空中、水中撮影: ヴァルテル・ヴォティッツ Walter Wottitz
カメラマン: フィリップ・ブラン Philippe Brun
撮影助手: ピエール・リ Pierre Li
同: ジャック・ルナール Jacques Renard
進行: J・P・スピリ=メルカントン J.P.Spiri-Mercanton
美術: テオバルド・ムーリッス Théobald Meurisse
美術助手: エンリケ・ソノイス Enriqué Sonnois
同: マルク・ドザージュ Marc Desages
装置・装飾: ロジェ・ヴォルペール Roger Volper
美粧: モード・ベゴン Maud Begon
記録: ベティ・エルヴィラ Betty Elvira
編集: フランソワーズ・ボノ Françoise Bonnot
衣装: コレット・ボード Colette Baudot
録音(音取り): ヴィクトル・ルヴェッリ Victor Revelli
サウンド編集: ロベール・プレ Robert Pouret
音楽: エリック・ド・マルサン Eric de Marsan
回廊のシーンの音楽: モートン・グールド Morton Gould 「スピリチュアルズ・フォー・オーケストラ」『Spirituals for Orchestra』 (ノンクレジット)
ピアノ演奏: ボブ・ヴァテル Bob Vatel
タイトル・デザイン及び特殊効果現像: ユーロシテル Eurocitel
映画冒頭のエピグラフ: Mauvais souvenirs, soyez pourtant les bienvenus ... vous êtes ma jeunesse lointaine ...
  (Courteline)

いやな思い出だ!しかし、ようこそ、はるか彼方の青春時代よ ...
  (クールトリーヌ)

キャスト
フィリップ・ジェルビエ Philippe Gerbier: リノ・ヴァンチュラ Lino Ventura
リュック・ジャルディ Luc Jardie: ポール・ムーリッス Paul Meurisse
ジャン=フランソワ・ジャルディ Jean-François Jardie: ジャン=ピエール・カッセル Jean-Pierre Cassel
マチルド Mathilde: シモーヌ・シニョレ Simone Signoret
フェリックス Félix: ポール・クローシェ Paul Crauchet
“仮面(マスク)” le Masque: クロード・マン Claude Mann
“野牛(ビゾン)” le Bison: クリスチャン・バルビエ Christian Barbier
床屋 coiffeur: セルジュ・レジアニ Serge Reggiani (特別出演)
ポール・ドゥナ Paul Dounat: アラン・リボル Alain Libolt
パッシー大佐 le colonel Passy: アンドレ・ドヴァヴラン (本人) André Dewavrin (himself)
ルグラン Legrain: アラン・ドコク Alain Decok
収容所司令官 le commandant du camp: アラン・モッテ Alain Mottet
フェルテ=タロワール男爵 Baron de Ferté-Talloire: ジャン=マリ・ロバン Jean-Marie Robain
憲兵: アルベール・ミシェル Albert Michel
独軍軍医: ドニ・サディエ Denis Sadier
ジャレ・デュ・プレシス大佐 colonel Jarret du Plessis: ジョルジュ・セリエ Georges Sellier
オクターヴ・ボナフース Octove Bonnafous: マルコ・ペラン Marco Perrin
薬剤師オーベール Aubert: ユベール・ド・ラパラン Hubert de Lapparent
操車係: コラン・マン Colin Mann
英空軍副官: アンソニー・スチュアート Anthony Stuart
ド・ゴール将軍 Général de Gaulle: アドリアン・カイラ=ルグラン Adrien Cayla-Legrand
無名の愛国者: ミシェル・フレイトー Michel Fretault
マリー Marie: ジャンヌ・ペレーズ Jeanne Pérez
ドイツ軍士官: ジャック・マルブーフ Jacques Marbeuf
ジャン=フランソワの女友達: ナタリー・ドロン Nathalie Delon (ノンクレジット)
骨董屋店主: ピエール・ヴォディエ Pierre Vaudier
他の出演者: ジェラール・ユアール Gérard Huart、ミシェル・ダカン Michel Dacquin

コダック・イーストマン・カラー
140分。配給 = ヴァロリアフィルム
1969年1月から3月まで、フランス、パリ、ロンドンにてロケ撮影、及びブーローニュ撮影所にてセット撮影。
パリ公開 = 1969年9月12日
日本公開 = 1971年5月30日。配給 = 東和。
国内盤DVDあり。国内VHSビデオレンタルあり。海外盤DVDあり。DVD情報はこちら

なお、スタッフやキャスト等のデータに関しましては、主に「サムライ」(ルイ・ノゲイラ著、井上真希訳、晶文社刊)、「キネマ旬報 1973 616」(シネ・ブラボー ジャン=ピエール・メルヴィル追悼(1)山田宏一)、「Jean-Pierre Melville/An American in Paris」(Ginette Vincendeau著)の3冊を参考とさせていただいております。
また、スタッフの役職名等、映画本編のエンドクレジットとは多少表記が異なると思われる部分もございます。



レビュー
「レジスタンス運動をテーマにした崇高で驚異的な記録の物語から、私は回顧的な夢想、つまり私の世代に深く刻まれたひとつの時代への愛惜にみちた巡礼をしたのさ」(引用―ルイ・ノゲイラ著 井上真希訳 晶文社刊「サムライ―ジャン=ピエール・メルヴィルの映画人生」より)

1943年アルジェリアで刊行された、第二次大戦におけるフランスのレジスタンス運動を描いたジョゼフ・ケッセルの同名文学を映画化したもの。
刊行当時ロンドンでこの本を読んだというメルヴィルは、すぐさま映画化を決意、実際に映画化が実現したのはそれから25年も後のことでした。
言うまでもなく、自身レジスタンス活動家であったメルヴィルにとって、この作品の映画化はある種のライフ・ワークであったと言ってよく、その映画化に対する執念には原作者ケッセルも驚嘆したとのことです。
メルヴィル自身、「自らの最良の作品」と語ったように、完成した作品にメルヴィルは大変誇りを感じ、満足していたようです。

実際これは、観終わった後に言葉が出なくなるような衝撃的な映画。
作品のタッチはいつものメルヴィル的でありながら、もっと心の奥深い部分に突き刺さるような重々しさをも湛えた作品。
私達はともすると、「ナチス=悪、レジスタンス=善」というような単純で画一的な見方をしてしまいがちですが、この映画を観る限り、レジスタンス運動というものがそのような単純な問題ではなかったということを思い知らされます。(もちろん“ナチス=悪”という概念に変わりはありませんが)

他の監督ならば派手に描かれそうなバイオレンスシーンもメルヴィルらしくサラっと省略しているので、派手さこそ無い作品ですが、胸を締付けるような重厚なストーリーと、撮影監督ピエール・ロムによる“ブルー・グリーン・トーン”を活かした映像美によって、内容の凄惨さは充分に伝わってきます。

この作品は、2006年に初めてアメリカでも公開され、二つの批評家協会賞を受けるなど、高い評価を得ました。
公開時のフランスでは思うようには当たったとは言えない作品であり、メルヴィル生前中は決して高く評価されたとは言いがたい作品なのですが、近年英BFI盤、米クライテリオン盤、しかもドイツではHD DVDと立て続けにDVDがリリースとなり、ここに至ってようやく作品の質に見合った世界的評価が下されるようになってきたと言えるのかもしれません。(ただし、日本盤は廃盤という現状は残念)

これもある種の戦争映画と言えますが、その内容といえば、レジスタンスがいかにドイツ軍に対抗したかを勇壮に描いているわけでもなく、また、日本人が好んで描きそうなイデオロギチックなものでも決してありません。
むしろ、この映画には思想的なものやメッセージのような類はほとんど描かれていないと言ってもよいでしょう。

ここに描かれているような出来事が実際に1940〜44年に至る間のフランスにあったということは確かでしょうが、「リアリズムは排除した」というメルヴィルの言葉にあるように、この作品は あくまでフィクションを描いた映画であると考えるべきでしょう。
実際、ケッセルの原作とは異なる部分も多いとのことですが、ケッセルの原作を基本的には尊重しながらも、あの時代にメルヴィルが経験した一つの現実をノスタルジーを込めて映画作品として描いているのだと思われます。

だからこそ冒頭の
「嫌な思い出だ!しかし、我が青春時代よ、ようこそ!」というメルヴィルがこの上なく好きだというジョルジュ・クールトリーヌの言葉が映画の冒頭に紹介されているのだと思います。(それにしても、東北新社盤DVDではこの部分の字幕が「この映画の登場人物は実在し、事件は事実にもとづいている」と全くの間違った意味になっているのは問題ではないでしょうか・・・)

事実、名場面満載の作品ですが、とりわけ印象的なシーンをいくつか挙げたいと思います。



まずは、 映画冒頭の、ドイツ軍の凱旋門前広場行進シーン。
ナチス・ドイツによるフランス占領を象徴するシーンとして、メルヴィルはこれを映画の冒頭に持ってくるかラストに持ってくるかで公開直前まで悩みに悩みまくったということですが、やはり冒頭に持ってきて正解だったと思います。
メルヴィルは自分が撮ったことを誇りに思うのはこのシーンと、『いぬ』のクランのオフィスのシーン(俗に9分38秒と呼ばれています)だけだと語っているくらいで、いくら映画の撮影とはいえ、このようなシーンを凱旋門で撮るには大変な困難が伴ったといいます。
実際、朝のシャンゼリゼ広場を借り切っての撮影は野次馬を追い払うのが大変で、莫大な費用がかかったとのこと。
その撮影の様子はクライテリオン盤DVDの特典ディスクでも観ることができますが、この撮影が実現できてよほど嬉しかったのか、メルヴィルのイキイキとした表情が印象的です。

次に、映画前半のゲシュタポ本部で、リノ・ヴァンチュラ演じるフィリップ・ジェルビエが衛兵を刺して逃亡するシーン。
行きそうで行かない、あのキッカケまでの時間が止まるような緊張感の描写はなんともメルヴィルらしく、見事と言えるのではないでしょうか。

そして、ポール・クローシェ演じるフェリックスがゲシュタポに逮捕されるシーン。
時間としては長いものではありませんが、そのシーンの不気味なまでの寒々しさと、後に残ったフェリックスの山高帽が印象的。
帽子の使い方の上手さはさすがですね。

そして、ヴァンチュラが再びゲシュタポに捕まり、監獄の中で仲間たちとタバコを回し合うシーンも実にメルヴィル的。
処刑前の絶望感に満ちた一人一人の表情がなんとも印象的であり、見事な演出がなされていると思います。

そして、ラスト。
それに続く四つの言葉・・・。
これに衝撃を受けない人はいないのではないでしょうか。


俳優陣も実に素晴らしい。

映画の主人公であるフィリップ・ジェルビエを演じた主演のリノ・ヴァンチュラ。
メルヴィル監督作品では『ギャング』以来2度目の出演となりますが、『ギャング』の時からヴァンチュラとメルヴィルは反りが合わず、反目し合っていたようです。(ヴァンチュラの方が嫌っていたようで、この映画のクライテリオン盤DVDの特典映像でもムーリッス、カッセル、クローシェとは一緒にテレビに出ていますが、主演のヴァンチュラは出ていません)
事実、ジェルビエ役をリノ・ヴァンチュラに受けてもらうための説得に9年掛かったといいますから、『ギャング』を監督するずっと以前からメルヴィルはこの役にヴァンチュラを思い描いていたことになります。(途中ヴァンチュラが受けないことに業を煮やしたのか『サムライ』出演前のアラン・ドロンにこの役を提案しましたが断られています。ルイ・ノゲイラ著「サムライ」参照)
私見ですが、メルヴィルがヴァンチュラのキャスティングにこだわったのは、フィリップ・ジェルビエという人物の、元工学士という知的な側面と、レジスタンス活動家リーダーとしての信念と行動力の両面を感じさせる役柄にヴァンチュラほどの適任は考えられなかったためでしょう。



実際、メルヴィル映画のメインテーマともいえる“友情と裏切り”を鮮烈に描いたこの作品において、ヴァンチュラならではの演技が光るシーンがいくつもあります。
例えば、裏切り者ドゥナを処刑する前に“マスク”を説得する際の怒りの表情、ナチスの射撃場から奇跡的に救い出され、マチルドと別れる時の穏やかな表情、久々に“ビゾン”らの訪問を受け、眼鏡を作ってもらった時の嬉しそうな表情、そして、その直後のビゾンとの議論における冷酷なまでの厳しい表情・・・。
『ギャング』、または他の映画でもそうですが、ヴァンチュラほど友情を交感するシーンに一瞬の真実のぬくもりを感じさせる俳優は稀ではないでしょうか。
名優と呼ばれる所以だと思います。

ヴァンチュラはこの映画の出演を断り続けても良かったでしょうが、結果として彼はこの映画に出演しました。
本音ではメルヴィルと一緒に仕事をするのはイヤだったのかもしれませんが、それでもどこかで監督としてのメルヴィルを認めていたからこそ、この映画で一緒に仕事をしたのではないかと思います。
撮影時の二人の仲がどうであれ、こうして完成した作品は本当に素晴らしいものになった。
現在この作品を観る我々にはそれが全てです。

他にもポール・ムーリッス、ジャン=ピエール・カッセル、ポール・クローシェ、特別出演のセルジュ・レジアニ(床屋役)に至るまで、なんともメルヴィル作品らしい顔がズラリと揃い、その誰もが印象的。



中でも印象的なのは、女性活動家マチルドを演じた紅一点シモーヌ・シニョレでしょう。
優れた演技力と女傑っぷりが凄く、その存在感の大きさがこの映画に果たしている役割の大きさは計り知れません。
だからこそ、あのラストが強烈な印象として残るのだと思います。

もちろん、レジスタンスの英雄ジャン・ムーランがモデルだと言われる、頭領リュック・ジャルディを演じたポール・ムーリッスの重厚な演技も見事ですし、ジャン=ピエール・カッセル演じるジャン=フランソワの存在感の爽やかさは、この映画の一服の清涼剤と言えます。
この二人の兄弟が、お互いがレジスタンス運動に従事していることをついに知らぬままというのも、実に映画的ですが、安っぽさは微塵もありません。
また、特筆したいのは、ロンドンのシーンで登場するパッシー大佐役を、本人であるアンドレ・ドヴァヴランが演じていることです。(“パッシー”という名はもちろん偽名)

エリック・ド・マルサンの素晴らしいテーマ音楽についても触れないわけにはいかないでしょう。
ユニヴァーサル・ミュージックから発売されているこの映画のサントラのブックレットにはド・マルサン本人のインタビューが収録されていますが、彼に対するメルヴィルの注文がいかに厳しかったか、そして、メルヴィルという映画監督と付き合っていくのがいかに困難なことであるかがよく伝わってきます。
この映画のメインテーマである「ジェルビエのテーマ」は、これがド・マルサンの映画音楽の作曲家としては処女作となったというのが信じられないほどの名曲であり、この映画の悲劇性を見事に表現しています。


スタッフ キャスト レビュー あらすじ


あらすじ
1942年10月20日、土木技師で博士号を持つフィリップ・ジェルビエは“抗独危険思想”の持ち主として当時フランスを占領していたドイツ軍に逮捕され、収容所に入れられた。
もともと、第一次世界大戦で独軍の捕虜を入れるために作られたこの収容所には、すでにあらゆる国籍の人びとが収容され、自由と未来のない生活を送っていた。
ジェルビエと同じ部屋には元陸軍大佐の老人や共産党員の若者ルグランらがいたが、ジェルビエはルグランとだけ親しくなり、二人は一緒に脱走する計画を立てる。

ところが数週間後、ジェルビエは呼び出され、パリのゲシュタポ本部に送還されることになる。
処刑されることが明らかと悟ったジェルビエは、監視の隙を見て衛兵を刺殺、先に逃げた者がドイツ軍の銃弾を一身に浴びる間に、夜のパリの街に逃げ去った。
逃げ込んだ床屋の主人は事情を察したのか、無言でジェルビエを庇ってくれた。

数週間後、マルセイユにて。
レジスタンス活動家である若者ドゥナが、同じく活動家であるフェリックス、ビゾンに連行され車に乗せられる。
その車の中に、レジスタンス活動に本格的に参加したジェルビエの姿があった。
実はドゥナは過去にジェルビエの情報を売り、そのためにジェルビエはドイツ軍に逮捕されていたので、その処分のために連行されたのだ。

車は海岸に程近い場所に止まり、ドゥナはある建物の二階に連行される。
そこにはレジスタンス活動に参加したばかりの若者マスクが連中を待っていた。
初めは銃殺するつもりだったが、周囲に音が丸聞こえなので、絞め殺すことにした。
そこにいた誰もが仲間を殺すのは初めてだったが、組織の掟として裏切り者は絶対に許されないのだ。



ある夜、フェリックスはマルセイユのバーにて航空隊での旧友であるジャン=フランソワと出会う。
フェリックスはジャン=フランソワをレジスタンスの仲間に誘う。

ジェルビエは、身分を隠すための隠れ家ともいえる芸能事務所内でフェリックスと新たな計画を練っている。
ベルギー人、カナダ人ら7人の仲間と共に米軍の潜水艦でロンドンに脱出し、自らも抗独運動の拠点「自由フランス」の指導者ド・ゴール将軍と連絡を取る仕事である。
誘導役と監視役として、フェリックスはジャン=フランソワはどうかとジェルビエに提案する。

ちょうどその頃、ジャン=フランソワはパリにいる女性闘士マチルドに仲間の連絡のための通信器械を届ける任務を任されていた。
パリのガール・ド・リヨン駅には、厳重な検問がしかれている。
ジャン=フランソワは、機知を利かせてドイツ軍の検問を潜り抜け、地下道でのドイツ軍に協力するパリ警察の抜き打ち検査をも突破し、ついに任務を遂行する。
一方、通信器械を受け取ったマチルドは、女性ながらも危険をも顧みない度胸を持った活動家である。

ジャン=フランソワはその足でパリに住む兄リュック・ジャルディを訪ねる。
“聖人”とも呼ばれる、著名な学者である兄は、この占領下にも相も変わらず学者としての研究を続け、ベートーヴェンの音楽を愛していた。
ジャン=フランソワは、この年の隔たった兄に対し、もともと思い出以外の共通点を感じていなかったが、この時、不思議とレジスタンス運動の同志たちに感じる以上の親近感を抱いていた。

とある海岸沿いの、ヴィエラという農家に潜水艦を使っての脱出計画の準備のため、ジェルビエ、ジャン=フランソワ、カナダ人らが集まっている。
農家の家族たちは、ごく一般のフランス人だが、ジェルビエたちの活動を理解し、支援してくれていた。
そんな中、急にこの計画に参加するため、一番上の“ボス”までやってくるという。
ジャン=フランソワは、ボスをボートで誘導する役を任されるが、暁の海上では、ボスの顔は誰と判別できない。
しかし、その面影はどことなく誰かに似ている気がした・・・。
実はそのボスこそ、ジャン=フランソワの兄リュック・ジャルディであった。



ロンドンに到着したジェルビエとリュック・ジャルディは、「自由フランス軍」のパッシー大佐と今後の対応を協議する。
リュック・ジャルディはレジスタンス運動の功績を認められ、ド・ゴール将軍に勲章を授与される。

当時のロンドンは、ドイツ軍の空襲に苦しんでいたとはいえ、今なお自由の空気が残っていた。
たまたま入ったパブで若者たちの踊りを見ているジェルビエには、それがなんとも羨ましかった。
そんな時、フェリックスがリヨンでドイツ軍に逮捕され、それがロンドンのジェルビエの元へも伝わる。
一刻も早く助けたいジェルビエは、英軍用機からのパラシュート落下で南フランスへと舞い戻る。

フランスに戻ったジェルビエは、活動の拠点をリヨンに置き、マチルドの才能と手腕を買って、その右腕とする。
マチルドは旧陸軍衛生学校であるゲシュタポ本部の地図を入手し、フェリックス奪還作戦に打って出る。
マチルドは、ジェルビエのためにも安全な隠れ家をと、タロワール男爵邸を用意した。
元騎兵士官であったその邸の主人は、そこを飛行基地にしたらどうかと提案し、結果、それが活動家たちの飛行基地として大きな効果を上げることになる。

フェリックスの居所は掴んだが、本人に知らせる手段に腐心するジェルビエとマチルド。
マチルドはゲシュタポ本部へ直接乗り込むことを計画し、ビゾンにドイツ兵の制服を工面するよう指示する。



そんな時、突然ジャン=フランソワが活動から降りたいという手紙を認め、仲間内から姿を消す。
ところが、ジャン=フランソワはそれと同時に、ゲシュタポに対し、自らを密告する手紙を出す。
彼は、フェリックスに仲間の行動を知らせるため、あえて自らを売ったのである。
レジスタンスの仲間たちはそんなことなどつゆほども知らなかったが、間もなく、狙い通りジャン=フランソワはドイツ軍に逮捕される。
また、ジェルビエらがアジトとしていたタロワール男爵家も、ジェルビエが去った後、ドイツ軍に捕まり銃殺される。

フェリックス奪還のため、マチルド、ビゾン、マスクの3人は、ドイツ軍の救世軍に変装してフェリックスを車で連れ出そうとするが、フェリックスは拷問によってすでに瀕死の状態で医師が移動を認めず、これもかなわない。
マチルドはそこで、ジェルビエがゲシュタポのブラックリストに入っていることを発見する。
無念の思いでゲシュタポ本部を去ってゆく3人。
それを確認したジャン=フランソワは、一粒の青酸カリをフェリックスに渡すのだった・・・。


ジェルビエはゲシュタポの検問にかかり、再び逮捕されてしまう。
ジェルビエが入れられた収容所の中は、処刑を待つばかりの囚人たちの陰鬱とした空気が漂っている。
間もなく処刑の時となり、ジェルビエらはドイツ軍の射撃練習場へと連れて行かれる。
ドイツ軍の士官は、機関銃から逃げおおせて標的まで辿り着いた者は次の処刑まで猶予期間が与えられるとジェルビエたちに申し渡す。
それへの反発から当初は走ることを拒絶していたジェルビエだが、自らに向けられる銃弾への底知れぬ恐怖感からか、思わず走り出す。
間もなく銃弾の嵐が彼らに降り注ぐが、そんな時突如投げ入れられた発煙筒と一筋の縄・・・。
必死の思いでそれを伝ったジェルビエの手を握り締めたのはビゾンの大きな手だった。
腕を撃たれたジェルビエを助け、用意してあったドイツ車に乗せて逃げ去るビゾン、マスク、マチルド。
このジェルビエ奪還計画はマチルドの計算であった。

やがて、ジェルビエは田舎のある一軒家に案内され、そこでしばらく過ごすことになる。
3週間、全く孤独な日々を送るジェルビエ。
“ボス”リュック・ジャルディの書いた5冊の本のみが外界との唯一の接点であった。

そんな時、リュック・ジャルディ本人が突然ジェルビエの目の前に現れる。
ジャルディはマチルドが逮捕されたことを告げる。
逮捕されたマチルドは、娘の写真を持っていたことから、それを脅迫に使われたのだという。
組織のトップの名前を言うか、または、娘をポーランドのドイツ軍の慰安婦にするか・・・。
そこに偶然ビゾンとマスクが来合わせ、ジャルディは一旦奥へと姿を消す。

ビゾンらの報告書から、マチルドの裏切りを知ったジェルビエは、マチルドの処分を決定する。
それに反対するビゾンと激しい議論となるが、ジェルビエの決意は変わらない。
そこへ姿を現したジャルディは、マチルドの処分は彼女自身が望んでいることだとビゾンを説き伏せる。

1943年2月23日 日曜日。
パリのある路上を一人歩くマチルドに一台のドイツ車から銃弾が向けられる。
その車に乗っていたのはジャルディ、ジェルビエ、ビゾン、マスクの4人だったが、後に彼らにも過酷な運命が待ち受けていた・・・。

マスクは43年11月8日、青酸カリを飲んだ。
ビゾンは43年12月16日、刑務所で斧で首を切られた。
ジャルディは44年1月22日、最後に自らの本名を言って、拷問によって殺された。
ジェルビエは44年2月13日、今度は走らずに銃弾を浴びた。



スタッフ キャスト レビュー あらすじ