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『ある道化師の二十四時間』
『Vingt-quatre heures de la vie d'un clown』
(1946)

スタッフ
製作: メルヴィル・プロ Melville Productions
製作代表: ジャン=ピエール・メルヴィル Jean-Pierre Melville
同: ピエール・ブロンベルジェ Pierre Braunberger
脚本・監督: ジャン=ピエール・メルヴィル Jean-Pierre Melville
撮影監督: ギュスターヴ・ローレ Gustave Raulet
同: アンドレ・ヴィラール André Villard
助監督: カルロス・ヴィラルデボ Carlos Villardebo
同: ミシェル・クレマン Michel Clément
音楽: アンリ・カッセル Henri Cassel
編集: モニーク・ボノ Monique Bonnot


キャスト
道化師: ベビ Béby
道化師: マイス Maïss
道化師の妻: ベビ夫人 Madame Béby

モノクロ
22分(17分との記録もあり。管理人所有のDVDでは18分)。1946年撮影。

スタッフやキャスト等のデータに関しましては、主に「サムライ」(ルイ・ノゲイラ著、井上真希訳、晶文社刊)、「キネマ旬報 1973 616」(シネ・ブラボー ジャン=ピエール・メルヴィル追悼(1)山田宏一)、「Jean-Pierre Melville/An American in Paris」(Ginette Vincendeau著)の3冊を参考とさせていただいております。
また、スタッフの役職名等、映画本編のエンドクレジットとは多少表記が異なると思われる部分もございます。

レビュー
子供の頃サーカスが好きだったというメルヴィルが、道化師を主役に撮った短編映画。
長篇処女作である『海の沈黙』以前に撮った、正真正銘の処女作であり、ここで既に製作・脚本・監督を兼任しています。

やはり、これもまた国内未公開作品で、“幻の作品”である今作を観ることはまず不可能かと私も思っていましたが、この作品を収録した海外盤DVDがまれに市場に出ることがあり、私もその恩恵でこの作品を観ることができました。
私はロシア盤DVDを手に入れましたが、残念ながら英語字幕すらありませんので、言葉は全く分かりません。(韓国盤には英語字幕が収録されているようです)
しかし、サイレント的な味わいの濃い作品ですので、映像だけ観ていても割と楽しめます。

内容は、本物の道化師であり、実際にメルヴィルの友人だったというベビを起用して、道化師の一日を描いています。
とはいえ、20分程度の短編ですので、全体の流れは大雑把といえば大雑把。
メルヴィルが、使用したフィルムの劣化などの理由からこの作品を気に入っていなかったのはルイ・ノゲイラ著「サムライ」でのインタビューにも明らかですが、実際にこの作品を今日観ますと、本人が言うほどには映像面での欠点が目に付くわけでもなく、内容もなかなか味のある小品だと思ってしまったのはファンの贔屓目でしょうか。
演出にも変にセコセコしたところがない大らかな印象の強い作品で、ベビーが就寝前に昔の写真を見るシークエンスなど、古き良き時代へのノスタルジーを感じさせます。
また、セリフはなく、すべてナレーションで進行します。

ちなみに、主演のベビはロベール・ブレッソン監督の第1作『公共事業』(34年 短編 日本未公開)の主役を演じているそうです。(未見)

あらすじ(採録:Faux様)
「正直な人たちを笑わせるのはすばらしい仕事だ。J・B・ポクラン」。(J・B・ポクランはモリエールの本名)。
夜のモンマルトル、ピガール地区で、シルエットの帽子の男が腕時計を見る。
11時50分だ。
メドラノ・サーカスでは道化師ベビとマイスの出し物が終わろうとしている。
派手な衣裳のマイスは横一列に吊るされた水の入った瓶を手で叩き、木琴のように奏でる。
ベビはギターで伴奏する。
出し物が終わると、彼らは楽屋でメイクを落とし素顔に戻る。

ベビの自宅では彼の妻が靴下の穴を繕いながら、彼を待つ。
彼は「またスパゲッテイか」と文句を言いながらスパゲッティを食べる。
ベビは寝室に入る。
マドリッド生まれの道化師「ブン=ブン」ことジェロニモ・メドラノ(1849−1912)の彫像。(ジェロニモの息子ジェローム(1907−98)が1928年に「道化師サーカス」メドラノ・サーカスを設立)。
アカデミー会員の作家でコメディ・フランセーズ総支配人も務めたジュール・クラルティ(1840−1913)によれば、メドラノは死にかけた子供を、その存在によって救った(クラルティは、1886年に、メドラノについての短編「ブン=ブン」を書いている)。
ミスタンゲット、アルベール・プレジャン(『巴里の屋根の下』)などベビの過去の共演者の写真が壁面を飾る。
最後にドア脇のジュール・クラルティの写真。
寝る前に彼はベッドで、セルジュ(本名モリス・フェオディエール)の「サーカスの道」(45年)という本を開く。
中にはアントネと彼への著者の献辞が手書きで書き込まれている。
続いてトリスタン・レミの「道化たち」(46年)という本。こちらにもベビへの手書きの著者の献辞が。
ベビは想い出の写真が一杯詰まった箱を開く。
ペル=メル、ジャン・リゴー、歌手ジョルジュス(本名ジョルジュ・ギブール)、レイモン・コルディ(『自由を我等に』)、『公共問題』のマルセル・ダリオ(『望郷』)、『公共問題』のジル・マルガリティス(『アタラント号』)、イタリアの不世出のジャグラー、エンリコ・ラステリ(1896−1931)、アントネ。
アントネの死後、ベビの相棒はマイスに替わった。
ベビの父の道化師アウグスト・フレディアニ(1846−1936)が家族に囲まれ死んだ家、ベビの兄ウィリー(1871−1947)のウィリー・サーカス、今はなきベルリンのケーヒニ・カフェの前のベビの写真。
グラウチョ・マークス(マルクス)のサイン入り写真。
ネグス、紳士、警官、伊達男に扮した若い頃のベビの写真。
フレディアニ一家の、人の頭の上に人が立ち、さらにその頭の上に人が立つ危険な曲芸の写真。
曲芸師になった18歳のベビの写真。
本を置いた彼は愛犬スウィングと一緒に祈る。
冒頭の帽子の男が暗闇で煙草の煙をくゆらせるシルエット。

朝、ベビは目覚まし時計で起きる。
犬がベッドから出て行く。
彼の妻が熱いコーヒーと手紙を持ってくる。
道化師になりたいという8歳半の少年からの手紙だ。
外出したベビは帽子を忘れたことに気づき、口笛でアパートの上の階の妻を呼ぶと、妻が帽子を投げる。
ベビはアパートの真向かいのレンタル公衆浴場(個室)に行く。
浴場を出たベビは、前方から歩いてきた若い美女に見とれ、妻に怒られる。
彼は仕立て屋に遭わないよう気をつけながら、近所の行きつけのカフェに行き、店の亭主や常連客に帽子とコインを使った芸を見せる。
マイスと落ち合ったベビは、レピック街のカフェのテラスで、果物売りの婦人、新聞を読みながら歩いて転ぶ紳士、その他の通行人たちを観察する。
仕事の時間が来ると、マイスと、愛犬スウィングを連れたベビは車でメドラノに行き、メイクする。
マイスは異色の経歴をもつ道化師だ。
1905年に、トゥーロンのオペラ座が火事になった時、負傷をした美人ダンサーを医師として治療し、彼女を口説いたたのがきっかけでこの道に入った。
マイスの娘がマイスの着付けを手伝う。
マイスとベビは舞台に上がる。
その晩の漫才風の芸(ここで初めてマイスとベビの同時録音の声が聴ける)には午後のレピック街での観察が活かされている。
道化師がひっぱたかれるのはお約束だ。
ベビもマイスにひっぱたかれる。
シルエットの帽子の男が腕時計を見ている。11時50分だ。